2004年08月16日

『空の境界 上下』奈須きのこ

[ Book]

三津浜図書館まで行って借りてきた本.
それほど切実に読みたかったわけではないのだが,中央図書館では予約待ちなのに,三津浜図書館まで行けば予約している人を飛び越して借りられる,という優越感(?)が大きかったと思われる.

愛媛に来てからはゲームをする機会がなくなってしまったのでゲーム業界にはすっかり疎くなってしまったのだが,この作者は同人ゲーム業界(?)で驚異的な人気を持っている会社の人で,この作品自体も同人小説として販売され,やっぱり驚異的な売上を叩き出したものを加筆修正したものだとか.

で,内容の方だが,発行元の講談社は「新伝綺」というジャンルとして位置づけたいらしいが,いわゆるライトノベルとの違いはほとんどないと思う.
上下巻で合計900ページ弱,しかも上下組みなので,けっして「ライト」ではないし(読むのに10時間くらいかかった気がする),章扉以外にはイラストもないが,内容的にはライトノベル以外の何物でもない.

この「ライトノベル以外の何物でもない」というのは決して貶しているわけじゃない.
ライトノベルというと中高生が読むもので,いい年齢をした大人が読むものじゃないという風潮もあるが,ライトノベルとして刊行されたが,その内容が評価されて通常形式の文庫として再刊行された『十二国記』や『デルフィニア戦記』という例もある.また,現在,第一線で活躍している作家も出身はライトノベルということが意外に多かったりする.
こういうことを考えると,ライトノベルだから読まないというのは,かなり損をしているんじゃないだろうか.

じゃあ,内容的にはライトノベルだけど,ライトノベルではなく大人も読むようなスタイルで刊行されたこの作品は,一般的な読書家に受けられるのかというと...ダメな気がする.設定といい,文章といい,かなり読む人を選ぶんじゃないだろうか.
ライトノベルには慣れていて耐性があるつもりの私でも,最初の1章を読んでいる最中は「うわっ,この文章はダメだ!」と投げ出したくなったくらい取っ付きが悪い.
読み進めていくうちに体(脳?)が適応したのか,それとも問題は1章だけにあったのか,2章以降は普通に読めるようになり,そうすると面白くなってくるのだが...

ネット上でも賛否両論なので,最終的な判断は自分で読んでみるしかないとは思うのだが,しかし長いからなあ... 京極夏彦の京極堂シリーズを楽しめる人ならば,かなりの確率で楽しめるかな?

ちなみに,実際に読むまでは『空(そら)の境界』だと思ってたのだが,本当は『空(から)の境界』だった.いくつか意味があるのだが,その関連で引用を.

結局、特別ではない人間なんていないんだ。
人間は、ひとりひとりがまったく違った意味の生き物。
ただ種が同じだけというコトを頼りに寄りそって、解かり合えない隔たりを空っぽの境界にするために生きている。
そんな日がこない事を知っていながら、それを夢見て生きていく。
きっとそれこそが誰ひとりの例外もない、ただひとつの当たり前(ノーマリティ)。