2005年03月12日

『復活の地 全3巻』小川一水

[ Book]

地球の消滅によって惑星ごとに科学力や経済力が大きな格差が生じてしまった遥かな未来,ようやく惑星統一を成し遂げ,宇宙に進出しようとしていた惑星の帝都を大震災が襲った.
急遽,摂政となった皇女は,震災直後の緊急対策に活躍した若き官僚を大抜擢し帝都復興を命じる.しかし,政府との対立や軍部の暗躍,さらには守るべき市民からの反感のため,復興事業は遅々として進まず...

『第六大陸』『導きの星』の作者による「国家再生ドラマ」.
宇宙船が出てきたりするのでジャンルとしてはSFなのだろうが,それほどSFっぽくはなく,人間ドラマの要素の方が大きく,後述するように,とても「熱い」小説.
しかも,単に熱いだけの小説ではなく,官僚組織の問題点や緊急時の組織のあり方,役人の気構えなど,色々な要素が含まれている.公務員志望の人はこれを読んで,これくらいの気構えがあるのかどうかを自分に問い直してもらいたい.

ここからは「熱い」について.
先日,書店でライトノベル関連のムック本を立ち読みしたところ,ライトノベルには「萌え」と「燃え」という要素があると知った.
私は「萌え」については理屈として理解できるものの,感覚として実感できないので,「キャラ萌え」に走った作品は苦手.

じゃあ,どうしてライトノベルを読んでいるのかというと,作者の作る独自の世界観や現実世界では展開できない荒唐無稽なストーリーが好きというのもあるのだが,どうやら「燃え=熱い」が好きなようだ.
で,まさにこの作品は「燃え」小説なので,非常に楽しめた.強いて難を挙げるとすれば,ディティールを追求しすぎた結果,ちょっと話が長くなってしまった感がある.できれば2冊くらいに収めてもらえれば,もっとスピード感のある話になったような気がする.
でも,名も無き市民たちのドラマこそがこの作品の一つの柱である以上,そのあたりを刈り込んでしまうのも問題か...

最後に気に入った箇所の引用を.

 その通りだ、と思った。ぼんやり座っているだけの人間に何の価値がある。それが有為たるべきことを期待される役人ならばなおさらだ。役人だからこそ、非常時にあっては真剣に価値を問われるのが当たり前なのだ。
崩れかかった瓦礫に頭を突っ込んでいるときに、外野の命令を聞いている余裕など無い。外野こそこちらに従ってくれ、現場の指示を聞いてくれ、と救助要員が思っているであろうことを。後方がするべきことは命令ではなく、服従なのだ。それこそが後方の存在意義なのだ。
「稟議書を回して合意を取り付けて予算をつけて動かすような役所仕事は、今の場合通用しない。平時と急時のやり方は違うんだ。こういうときはその場にいる個々人の裁量を最大限信用するしかない。協定を結んでいなければ動かないというのは、それこそ相手を馬鹿にした考えだ。今するべきは、とにかく能力のある人間と直接話をすることなんだ!」
 ……省衙が崩れようが吏員が死に絶えようが、官の理念と目的は滅しない。それは有形の何物かに発するものではなく、ましてや支配者の尊大な権威から派生するのでもなく、ただ臣民への奉仕の必要性から生まれくる。官たろうとするならそれを忘れるな。おまえが従うのは一に公の福利のみだ。
「悔しくないんですか!」
「おれの悔しさなんかどうでもいい。泥を舐めてでも仕事をするのが公僕だ」
「指導者なんてこんなものだ。他人より損な役回りをするから責任者と言えるんだ。そうでない責任者が存在するほうが間違っている。そうだろう?」
「それでいいよ。どんな体制であれ、参加しない者を認めない体制は必ず不純になるからな。……あんたはそのまま、はみ出し者でおってくれ」
「貴君はさっきから私をけなしてばかりいる」

あともう一つ,「一度だけ」の箇所も非常にいいのだが,これはネタバレになってしまうので,引用するのは止めておこう.
ああ,熱すぎる小説だった.