2005年06月04日

『蒲生邸事件』宮部みゆき

[ Book]

予備校受験のために上京した主人公は泊まっていたホテルの火災に巻き込まれるが,時間旅行能力を持つ男に助けられる.しかし,辿り着いた先は二・二六事件が起きる直前の東京だった.
男が回復するまで,元陸軍大将のいる屋敷に身分を隠して世話になることになった主人公だったが,銃声と共に屋敷の主は死亡.それまでの言動などから自殺かと思われたが,自殺ならば現場に残されるはずの銃が残っていなかった...

ネットでの感想などを読む限り,えらく評価が分かれている作品.大阪出張のお供として持って行き,西梅田で読み終えた.

日本SF大賞を受賞しているのでSFだと思って読めば肩透かしをくらうだろうし,密室(?)殺人があるからミステリかと思えばそうでもない.ジャンルとして微妙なところも原因の一つだとは思う.

しかし,評価が分かれた最大の理由は主人公にあるのだろう.主人公がひたすら「現代の若者」的,と書くと年寄り扱いされてしまいそうだが,行動が首尾一貫しておらず,その場しのぎで適当に行動し,しかもワガママという,かなり魅力的でない若者なのだ.で,その主人公があちこちに迷惑を振りまきながら行動するので,読んでいて時々腹が立ったりする.

しかし,そういう主人公も作者の計算によって作られた人物像であって,実はこの作品,SFでありミステリでもあるのだが,主人公の成長物語でもある.文庫版だと全部で670ページほどあるのだが,ラストの方になると見違えるように立派になっている.

感動のポイントもラストの方に集中しているので,そこまでテンションを維持したまま読みきることができれば,きっと満足できるのではないだろうか.
基本的に移動中に読んでいたのだが,ラストの方は西梅田の地下街のベンチに座って集中して読んでしまった.


最後に気に入った箇所を引用.

「だが僕はこの時代の人間だ。この時代をつくっている臆病者のひとりだ。そして、臆病者としてこの時代を生き抜く義務がある。これから先何が起ころうと、僕は必ず生き抜いてみせる」
蒲生貴之