2006年11月09日

『凍りのくじら』辻村深月

[ Book]

読書家で覚めた高校生の「理帆子」の一番のお気に入りは,自分と母を捨てて失踪した父が大好きだった藤子・F・不二雄と『ドラえもん』.
入院中で余命幾ばくもない母の存在を隠しながら,友人たちと適当に距離を置きながら過ごす「理帆子」だったが,その前に二人の男性が現れる.一人はかつて恋人だった「若尾」,そして「理帆子」を写真に撮りたいという「別所あきら」...

mixiの読書関連のコミュニティで非常に評判が高かった作品.松山市立中央図書館所蔵.

ネットで書評を検索してみたところ,主人公の痛さを指摘するものが多かったが,確かに痛さ大爆発という感じ.

「自分は頭が良い」と思っているくせに,非常に分かりやすいダメ男に引っ掛かってるし,他人を見下すというか,適当に分析して「Sukoshi F○○;すこし ○○」という風に無理やりラベル付けするところなど,読んでいて「イタッ!」と思わざるをえない.

まあ,冒頭で真人間になっている主人公が描かれているので,元の性格が悪ければ悪いほど,その変貌ぶりが際立つという演出なんだろうけど,そういう人物の一人称小説なので,読んでいて「ガーッ!」となることもしばしば.

その分,最後の方のカタルシスはかなりのもので,ところどころに感じていた違和感も「おおっ,そういうことだったのか!」となる.
で,結末を知ってしまうと,それはそれで筋が通らないところも思い浮かぶわけだが,「"少し不思議"な物語」なんだとすれば,それはそれでいいのだろう.
主人公の痛さに我慢ができるなら,結構オススメ.