2005年11月21日

『All You Need Is Kill』桜坂洋

[ Book]

謎の侵略者「ギタイ」との戦争を続ける未来世界,初陣を迎えた主人公は敢え無く戦死.しかし,次の瞬間,主人公は出陣前日に戻っていた.
どんなに逃げても襲ってくる死と繰り返される時間のループ.それを認めたとき,主人公は決意する...

いわゆるライトノベルなのだが,ネット上でとても評価が高かった作品.
以前から読みたいと思っていたのだが,ようやく古本屋で発見した.

同じ時間が何度も繰り返すというのは,以前記事にした北村薫の『ターン』をはじめとして,それなりに取り上げられる題材.
謎の侵略者との戦争や,それまで戦闘経験のない若者を主人公にするというのもよくあるパターン.
さらに主人公の武装がパワードスーツと来た日には,ありがちの王道という感じ.

しかし,本作はそれらの使い古された要素を見事に使い切って,見事な作品に仕上げている.

時間の繰り返しと,その中で主人公が感じる孤独,そして繰り返される時間の中に埋もれてしまうのではなく,その一瞬一瞬を大事に使おうと主人公が決意するという点でも『ターン』と同じ.
しかし,その決意は最初の方で行われ,その後の生き残りとループから抜けるための努力がメインになるという点では全然違っている.

そして,何と言っても「切なさ」が全然違う.
時間をテーマにした作品は切なくなければ!という歪んだ固定観念を持っている私としては,『ターン』はその点が不満だったのだ.
しかし,本作は本作はその辺りが非常にいい感じに切なく仕上がっている.
全体を通して2回読み,この記事を書くためにラストだけ読み返したのだが,それでも目頭が熱くなるという見事さだ.

これまで,それなりの数のライトノベルを読んできたが,「ヤバイ,泣きそう」と本気で思ったのは上遠野浩平の『わたしは虚夢を月に聴く』と本作だけ.
『わたしは虚夢を月に聴く』の方は読む前に他に読まなければならないものが多いので(世界観とか他の作品とのリンクが重要だから),なかなか人には勧められない.
しかし,本作は1巻完結で,サラッと読むことができるので,SFやライトノベルにアレルギーのない人にはぜひ読んでもらいたい.オススメ.


最後に気に入った箇所を引用.

 いいだろう。
 枕元にあった油性ペンで、左手の甲に「5」と書いた。
 この小さな数字が、ぼくの戦いのはじまりだ。
 持っていってやろうじゃないか。この世界で最高のものを次の日に持っていってやる。