2006年04月24日

『犬はどこだ』米澤穂信

[ Book]

人生の目的としていた職業に就いたものの,とある事情から辞職せざるを得なかった「紺屋」は郷里の地方都市で人生のリハビリのために犬捜し専門の調査事務所を開業した.
しかし私立探偵と勘違いされた事務所にやってきたのは,失踪人捜しと古文書の解読の依頼.そして私立探偵に憧れて押しかけ助手になった後輩の「ハンペー」だった...

これで米澤穂信の作品を読むのは6作目.これまで読んだ作品が基本的に「日常の謎」系ミステリだったのに対して,本作は探偵稼業を職業とする人物が主人公ということで,ある意味で正統派ミステリといえるかも.もちろん松山市立中央図書館所蔵.

まずは感想なのだが,すごく面白かった.面白さの方向性が違うので『クドリャフカの順番』や『さよなら妖精』とは単純に比較できないのだが,これらと甲乙つけがたいくらい面白かった.

所長の「紺屋」が担当する失踪人捜し(シリアス編)と,助手の「ハンペー」が担当する古文書の解読(コミカル編)が,それぞれ交互の視点から語られる変形一人称の作品なのだが,無関係に思われた二つの事件が微妙にリンクしている.
しかし,当事者たちがそれぞれ独立して事件を追いかけているため,その関係に全く気がつかなくて,読んでいて情報共有の重要性を思い知らされたりもするのだが,主人公たちがそれに気がついたとき...
そこからの展開は読んでいて鳥肌が立った.うおぉぉ,そうくるかぁぁぁ!

ネット側の協力者がちょっと強力すぎてご都合主義的に思えなくもないところが玉に瑕だけど,結構オススメ.

最後に気に入った箇所を引用.

……そうか。
 俺はあらゆることに半可通であり、どんな分野においても半端者だ。大抵のことはわざわざ教わるでもなくこなせたため、それ以上の深入りをすることはなかった。
 だからだろう。過去、実に二十三年間、こうした体験をしたことがなかったのは。
 つまり、知識が認識を変えるという体験を。
「……こいつは、面白い……」
「こいつは貸しにしとくぜ、ボス!」