2006年05月25日

『ヨコハマ買い出し紀行 全14巻』芦奈野ひとし

[ Book]

海水面上昇などによって,徐々に滅びようとしている未来の地球.
しかし悲壮感なく穏やかに日々を過ごす人間のそばには,人間そっくりのロボットたちがいた.
そんなロボットの一人で喫茶店のマスターである「アルファ」と,その周りの人やロボットの物語.

うーん,この紹介だと,全く違う話になってしまうな...
なかなか紹介が難しいのだが,12年間にわたって描かれ続けていて,ついに最終巻が発売されたマンガ.
全14巻という長い作品なのだが,ストーリーらしいストーリーはそれほどなく,アルファさん(や周囲の登場人物たち)の日常生活を淡々と描いているだけといえば,それだけの作品.
しかし,これが全然「それだけ」じゃない.

この淡々とした「雰囲気」や「空気感」が好きという人も多いのだが,ストーリー重視派の私は,この手の日常生活を淡々と描いていくタイプの作品はそれほど好きじゃない.
実際,途中で読むのを止めようかと思ったこともあるくらいなのだが,あることに気がついてから読むのを止められなくなってしまったのだ.

それは「登場人物が成長すること」.

登場人物が成長するのは物語にとっては当たり前のことなのだが,そういう意味の「成長」ではなく,純粋に「年をとる」のだ.
少年少女は少しずつ大人になって遠くに巣立っていき,大人たちも老けていく.
その一方,ロボットである主人公は年をとらず,周りの人たちが変わっていくのを見続けていき...

10巻を越えたあたりからそのことが明確になってきて,かなりジーンとくるシーンも増えてきた.
で,最終巻.
ちょっとだけ期待していた世界の謎についてはほとんど明かされることもなく,あいかわらず淡々としているのだが,登場人物もその周囲の環境も大きく変わってたりする.
収められている話も,過去の話と対になっているものが多くて,これまでの集大成というにふさわしい巻だった.

ちなみに私が一番好きなのは子海石先生だったりする.「先輩」時代もいいけどね.