2007年01月15日

『冷たい校舎の時は止まる 上中下』辻村深月

[ Book]

センター試験を控えた12月の雪の日,県下で有数の進学校に閉じ込められた同級生の男女8人.
どうやっても外に出ることができず,時間が5時53分で止まってしまった校舎.この現象には10月の学園祭で自殺した級友が関係しているらしいが,その名前をどうしても思い出せない8人.
しかし,自殺事件の後に撮った写真には級友が7人しか写っていなかった...

昨年読んだ『凍りのくじら』の著者のデビュー作でメフィスト賞受賞作なのだが,いきなり全3巻という大作.松山市立中央図書館所蔵.

『凍りのくじら』は主人公が痛すぎることを我慢できれば,ミステリとしても面白いし,ちょっと感動作だった.
じゃあ,その同じ作者のデビュー作はどうなのかというと,主人公の一人が作者と同じ名前だったりするので,やっぱりちょっと痛いかも...

ネットの書評を見てみると,やはりそのあたりの痛さを指摘しているものも多いのだが(作者=主人公であることについては理由がないこともないのだが...),それを除くとおおむね高評価.

確かによくできていて,全巻合わせると2段組で780ページ強という大作なのだが,一気に読んでしまったくらいに面白かった(おかげで生活リズムがガタガタになってしまったわけだが).
何が面白いのかというと,ミステリとしても面白いことは面白いのだが,登場人物の葛藤がいいのだ.

まずミステリ要素についてだが,かなり序盤に出てくるので書いてしまうけど,閉じ込められた校舎はある人物「ホスト」の精神世界なので,現実世界の常識が通用しない.
登場人物たちがその世界の法則性についての「仮説」を提示していくので,その線に沿って読者は推理していくわけだが,提示されるのはあくまでも「仮説」であることに注意.
まあ,最終的には世界の秘密や法則性が明かされて,それまで提示されていたヒントらしきものが全部つながっていくので,それほど卑怯っぽくはない.まあ,納得できないところがないわけではないけど.

で,もう一つの要素である登場人物の葛藤についてだが,閉じ込められた8人は勉強ができたり魅力的だったりするので,当初は何も問題を抱えていないように見えるのだが,実はそれぞれに悩みや心の闇を抱えている.
閉じ込められた校舎の中で,各自はそれに向き合うことになるわけだが,エピソードが8人分あるので,よっぽど悩みなく明るい青春時代を過ごした人以外は,誰か一人には確実に感情移入できることだろう.

『凍りのくじら』よりは痛さが弱めなので,登場人物が痛いのが苦手な人でもいけるかも.