2004年10月30日

『リスクテイカー』川端裕人

[ Book]

ビジネススクールでは劣等生だった元銀行員の日本人と元(現役?)ロックンローラーのユダヤ人が,物理学専攻の大学院生(中国系)の力を借りて,ヘッジファンドを設立.最新物理学の知識に基づく予測モデルを用いて,他のファンドを凌駕するパフォーマンスを叩き出すが...

以前紹介した『The S.O.U.P』の著者による「金融青春小説」.同じ金融青春小説としては石田衣良の『波のうえの魔術師』が挙げられるだろうが,それに比べると,本作の方がかなり読みにくいと思う.
それは,シンプルな株式取引と複雑なデリバティブという題材(舞台)の違いにも由来するのだろうが,本作は専門用語をきっちりと説明した上で,それをそのまま使うという姿勢で書かれているためだと思う.
しかも現実世界の市場の動きや事件をそのまま作中でも使っているので,金融市場とか世界情勢についての説明もガンガン出てくる.
なので,予備知識がない人には取っ付きが悪いこと甚だしいのだが,それさえクリアしてしまえば,非常にスリリングなストーリーを楽しめる.

しかも読み終わった頃には金融市場やデリバティブについての知識も少しは身についているという非常にお得な作品.

最初は松山市中央図書館でハードカバーのやつを借りて読んだのだが,非常に面白かったので,ネット古本屋で文庫版を購入した.ハードカバーにはなかった恩田陸の解説(そこでは「金融青春小説」ではなく「青春科学小説」と分類されているが)も付いていて,さらにお得感アップである.

最後に二つばかり引用を.

悩むがよい。悩みぬいた先で答えを見つけるのじゃ。ただし、お前は真面目すぎていかん。悩むのにも余裕と遊びが必要じゃ
間違いなくおまえは天才だ。でも、いかに天才でも、個人だけでは何もできないのが今の世の中だ。迷ったら、仲間を信じることも必要だぞ。