2005年01月04日

『ぼくは勉強ができない』山田詠美

[ Book]

『放課後の音符』と同じく山田詠美の青春物.
ユニークな母と祖父に育てられ,早くから自分自身の価値観を確立した主人公の高校生活を描く作品.

あちこちで非常に評判が高い作品なのだが,確かに面白かった.
『放課後の音符』と同じく主な登場人物は高校生なのだが,恋愛が中心テーマだった『放課後の音符』と違い,こちらは生き様というか価値観が中心テーマで,恋愛はその一部という感じ.
まあ,そんな堅苦しいことを考えなくても,爽やかで痛快な主人公の活躍がリズム感溢れる文章で描かれているのを楽しむだけでも十分だと思う.

以下は気に入った箇所の引用.

「わたし、殺してやりたくなった。そんなもん、私の貧血には、ちっとも役に立ちゃしないって叫びたかったわ。生きてくのに必要な知恵と、味つけにしかならない知恵とは、まったく違うじゃない?」
 そりゃ、確かに、はた迷惑な奴だ。女の子のナイトになれない奴が、いくら知識を身につけても無駄なことである。


 生きていることは錯覚ばかり、とぼくは病院に来る途中に思ったけれども、残す空気は、形を持たずして、実感を作り上げるのだ。しかし、その空気により他人に記憶を残せなかった人間は虚しい。やがて灰になるなら、重みのある空気で火を燃やしたい。