2005年01月28日

『航路 上下』コニー・ウィリス

[ Book]

とあるウェブサイトで「10年に1冊の傑作」「はやくも今年のNo.1が決定」などと絶賛されていたので,松山市立中央図書館で借りてきた.
ちなみに今回借りてきたのは2002年出版のハードカバーの方だが,2004年12月に文庫化されている.

臨死体験を科学的に究明するために聞き取り調査を行う女性認知心理学者(=ヒロイン)は,新しく病院にやってきた神経内科医から,臨死状態中の脳の状態を調べるプロジェクトへの協力を求められる.
臨死体験者に誘導質問を行って「作話」させる作家に閉口していたヒロインはプロジェクトに協力するが,被験者不足から自らが被験者となることを決意.化学物質によって人為的に引き起こされた臨死状態の中で,ヒロインはある「通路」にいた.実際に行ったことはないのに,どこだか分かる場所.その「通路」がある場所とは...

こうやって書くと,その「通路」というのが異世界につながっていて,とかそういうのを想像するかもしれないが,そういう話ではない.
私はそういう話だと思って読んでいたので,その場所の正体が明らかにされたときには「へっ?!」となってしまったのだが,そういう話ではないと知って読んだ人も正体を知ったときには「へっ?!」となってしまうと思う.

その正体が明らかになる直前までが第一部.
続く第二部は,その正体から臨死体験の意味を主人公が明らかにするまでで,読んでいてジュディ・フォスターが主演していた『コンタクト』を思い出してしまった.
最後の第三部は... まあ,言わぬが花だろう.

この作品,ハードカバーで上下巻,しかも二段組で両方とも400ページを超えるという大作.

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見よ,この分厚さ(比較対象はいつもの単三電池).
翻訳物でこの分厚さなので,なかなか読み進めないだろうなあと思っていた(特に直前に読んでいた『珈琲相場師』が読みにくかったので).
しかし恐ろしいことに,一度読み始めると止まらなくなってしまい,結局1日1冊のペースで読み終わってしまった.
化学物質の名前や機能,文学作品の引用などが頻出するので,決して読み易いはずはないのだが,これが不思議なことにスラスラ読めてしまう.
絶賛していたサイトでもリーダビリティ(読み易さ,読ませ続ける力)の圧倒的な高さについて触れられていたが,確かにそのとおり.これは訳者(=大森望)の力なのか,それとも作者のストーリーテリング力の賜物なのか.その訳者曰く「コニー・ウィリスはアメリカの宮部みゆきだ」そうだから,後者の方なのかなあ.

この作者,最近は『犬は勘定に入れません』でも評判になっているので,こちらも読んでみようと思う.でも,その前に『ドゥームズデイ・ブック』かな.

最後に気に入った箇所の引用を.

「だからみんな自分ひとりでほんとのことを確かめなきゃいけない。だれもいっしょには行ってくれない。ちがう?」
メイジー・ネリス『航路 上』
「ちがう、ふたつもまちがいがある。類似は最初からそこにある。メタファーはそれを見るだけだよ。そしてメタファーは、たんなる言葉のあやではない。人間の精神の本質そのものだ。われわれ人間は、類似性や対比や関係を見出すことで、自分たちの周囲のものを、自分が経験したことを、自分自身を理解しようとする。われわれはそれをやめられない。たとえ精神がそれにしくじっても、精神は自分に起きていることをなんとか理解しようと努力しつづける」
ブライアリー先生『航路 下』