2005年02月27日

『貧乏真髄』川上卓也

[ Book]

以前,ソースの賞味期限について検索したときにヒットしたのが耐乏PressJapan
最近流行の節約術を紹介しているサイトというのではなく,積極的に「貧乏」という生活スタイルを実践していこうというサイトなのだが,その内容を書籍化したのがこの本.
やっぱり松山市立中央図書館で借りてきた.ちょっと前の本にもかかわらず,借りようと思ったら既に借りられていたので,それなりに需要はあるらしい.

話はちょっとズレるが,私は現在あちこちで喧伝されている「スローライフ」なるものが大嫌いだ.
といっても,その中身が嫌いなのではなく,そういうものを「流行」として「消費」している状況が嫌いなのだ.本来のスローライフ的なものは「流行」とは対極にあるものだと思う.

で,この本はスローライフとかスローフードという言葉は使っていないが,まさにそういうライフスタイルを実践するための手段として「貧乏」を提唱している.

もう少し説明すると以下のようになる.
「本当の遊び」のためには自由が必要だが,その一方で人は消費しないと生きていけない.
消費のためにはお金が必要になるので,時間を会社などに切り売りしてお金を稼がねばならない.
しかし,衣食住を最低限まで切り詰めることができれば,切り売りする時間を減らすことができるので,自分の時間を多く得ることができる,自由に遊ぶことができる.
そのために「貧乏くさい生活に転がり落ちていく」のではなく,自らの意志で生活をリストラし,「貧乏に降りていく」ことを著者は提唱している.

その手段として,土鍋炊飯や小麦粉を使った料理の紹介や,冷蔵庫なしの生活を実現させるための食生活についての考察,キセルを使った喫煙の勧め,洗濯機の稼働率を下げる方法などが書かれている(私はタバコは吸わないのだが,キセルは一度試してみたい).
こういう具体的なものだけでなく,貧乏生活の意義や東京への旅行記なども掲載されている.

書かれている内容自体も面白いのだが,この著者の文章には独特の味があるので,それもいい感じである.


最後に気に入った箇所を引用.

 消費されない自分とは、消費しない自分でもあります。すなわち、消費は生きるために必要な最低限の衣食住にとどめることで、消失してしまう力も最小限にとどめることができるのです。残った力は、分散させるのではなく、一点に集中して放つ。貧乏とは、財力だけでなく、自分の持てるすべての力を、定めた方向へ収束させるための術なのです。
 思想もなく、考えること知らず、力を分散させ消失させるだけの貧乏くさい生活へと転がり落ちる人々。物でしか自分を表現できない、そして、そんなことを可能にしてくれる物質すら存在しなくなってしまった今、彼らに創造力などありません。貧乏は,彼らには存在しない創造する力を養うことができます。創造力は、きっと必ず、物に頼らない本物の個性を生み出してくれます。なにも考えず、ぼうっと生えるだけの考えない葦の中で、貧乏人こそが、人間として生きられるのです。
 人間は、物に頼れば頼るほど、貧乏くさくなるだけなのです。個性なんてやつは、個によって創られる存在意義に他ならないわけですから、これはいっくら消費したって得ることなど叶わないのです。また一方で、癒しだの、自分探しだのという逃避に熱心な人にも個などありませんから、個性など微塵もない人々の群れが出来上がってしまうのです。