2005年06月29日

『夏の災厄』篠田節子

[ Book]

春だというのに夏のような暑さが続く頃,古くからの集落と新興住宅地が混在する埼玉県のある市で奇妙な症状の患者が多発するようになった.
それらの患者は日本脳炎と診断され,市や医療機関は従来の法律と治療法に従って対処を行うが,その発病率の高さや明らかにならない感染ルートは日本脳炎のそれらでは説明ができないものだった...

どういう経緯だったか忘れたが,面白いという情報を仕入れたので,松山市立中央図書館で借りてきた.

あらすじからも分かるように,いわゆる疫病物なわけだが...

洒落にならないくらい怖い

決してスプラッタなシーンが続出するわけではないのだが,乾いた怖さというか,リアリティのある怖さというか,そういう怖さがあった.

疫病物は『ドゥームズデイ・ブック』しか読んだことがなかったのだが,『ドゥームズデイ・ブック』の舞台が未来と過去,しかも西洋ということで,どこか他人事的な感じがしたのに対して,この作品は現代日本が舞台.
それだけでもリアリティがあるのだが,題材とか道具立てが異常にリアルで,いつ本当に現実世界で起こってもおかしくないような感覚に襲われた.

リアルといえば,この作品の主人公の一人は公務員なのだが,お役所や官僚(医療行政?)の硬直性もかなりリアリティをもって描かれている.実際にこんな感じだったら,それこそ洒落にならんよな...

ということで,これから暑くなっていく夏に向けて読むと,ますます怖さが増すと思われるので,この機会に読んでみるというのはどうだろうか.


おまけ.
よく考えてみたら,篠田節子の作品を読むのはこれが初めてだった.
この作者は直木賞も取ってるし,ドラマの原作としてもよく使われているのに,どうして今まで読んだことがなかったんだろうか.我ながら読書傾向がやっぱり偏ってるなあ.