2005年11月12日

『スキップ』北村薫

[ Book]

昭和40年代の初め,女子高2年生の「わたし」が目覚めると,そこは25年後の世界.しかも自分は夫と17歳の娘のいる42歳の国語教師だという.
17歳のこころに42歳の身体というギャップを抱えたまま,高校2年までの記憶しかない「わたし」は,国語教師として,高校3年生の担任として,生きていくことに...

日常の謎系のミステリーで有名な北村薫のもう一つの代表作である「時と人 三部作」の第1作.

作者の北村薫は,その名前と作風から当初は女性ではないかと思われていたのだが,実際には男性で一部のファンを驚かせた.しかし,本作を読んで「本当に男性なのか?」と思ってしまった.
主人公が女性の一人称小説ということもあるのだが,なんというか,発想が女性的なのだ.いや,これだと語弊があるな,男性では考えつかないようなエピソードがたくさんある,といえばいいのだろうか.たとえば,同じシチュエーションで主人公を男性にすると,絶対にこういう話にはならないだろう.
まあ,これは男性である私の目から見ての話なので,女性が読んだときには「実際の女性はこんな考え方・感じ方はしない」と思うのかもしれないが.

それと,作者はデビュー当初は国語教師と作家の二足のわらじをはいていたのだが,その国語教師の経験と思い入れがたっぷりと詰まっている.
私が受けた国語の授業は教科書をそのまま読んでいくようなものばかりだったのだが,この作品に出てくるような授業を受けていれば,その後の人生が変わっていたかもしれない.
まあ,そういう国語教師関係のエピソードが盛り込まれたおかげで,作品が少々長くなっている面はあるのだけど.

最後に気に入った箇所を引用.

 そうではない。これは意志の表明なのだ。今、ここにいる以上、やること、やれることはきちんとやりたいという宣言なのだ。
 人であるなら、どこかからは聞こえてくる筈の、かくあるべし、という声に耳を傾けられるようでありたい。繰り返す。そうでなければ、わたしは生きていないことになってしまう。


「どうにもならないことっていうのは誰にだってある。歯がみして地団駄踏みたいことは。そこでどうするかが、人の値打ちじゃないかな」 桜木さん