2006年03月03日

『沼地のある森を抜けて』梨木香歩

[ Book]

化学メーカーで成分分析を仕事にしている「私」は,心臓麻痺で突然死した叔母からマンションと共に「ぬか床」を相続することになった.
先祖代々伝わってきたそのぬか床は相性の合わない人に世話をされると呻くというのだが,相性が合ったのか,美味しいぬか漬けができあがる.
しかし,ある日,そのぬか床の中からなぜか卵が現れて...

梨木香歩の作品を読むのは5冊目だが,小説としては3冊目になる.現時点での作者の最新刊でもある.松山市立中央図書館所蔵.
で,読み終わっての感想なのだが,なんというか,まあ,すごい小説だった.

最初はコメディっぽい話なのだが,途中でホラーになり,さらにはファンタジーが挿入され,伝奇物になり,ロマンス小説でもあるという,すさまじい展開をする話なのだ.
しかも,小説のジャンルが変わっていく一方で,ぬか床の世話の仕方から菌類,化学物質,生物学,進化論,フェミニズムなど,話の内容も縦横無尽に飛びまくる.
こう書くと,かなり支離滅裂な話のように思われるかもしれないが,不思議なことに支離滅裂という印象は受けない.

ただし,作者が言いたかったことを理解できたかというと,「分かったような,分からなかったような」というのが正直なところ.
『ぐるりのこと』での問題提起(危機感)に対する作者の答えが提示されているらしいんだが,そうなのか?
結局,○○を解消することはできないけど,それに絶望することなく努力しよう,というのが『ぐるりのこと』における作者の意見だと思ってたんだけど,ラストを単純に受け取ると,そうでもないようにも読めるしなあ...