2006年05月18日

『シナン 上下』夢枕獏

[ Book]

キリスト教徒の木工事屋の息子として生まれた「シナン」は,「人が造り出した、最も神がよく見える場所」と言われるイスタンブールのモスク「聖ソフィア」に近づくため,改宗してオスマントルコ帝国の工兵となる.
スレイマン大帝と大宰相イブラヒムの知己を得て,各地を巡ったシナンは,「聖ソフィア」を超えるモスクを建造することをめざすのだが...

刊行された当初に書店で見かけて以来,気になっていた本.図書館に行くたびにチェックはしていたのだが,刊行から既に1年半が経過している.うーむ,時の流れるのは早いなあ.松山私立中央図書館所蔵.

この本が気になった理由は二つある.

一つは,どういうわけか私はトルコという土地が妙に気になるという性質があること.
東西が交わる場所で,アジアとヨーロッパの両方の文化の影響を受けているということと,砂漠が近くにあるせいだと思うのだが,本作はそのトルコがメインの舞台.

もう一つは,本作で大きな役割を果たしている聖ソフィアがもともとはキリスト教の聖堂であり,ローマ時代のパンテオンっぽい建築物であるということ.
『ローマ人の物語』でパンテオンの設計思想についての説明を読んで,「ほぉ,それは一度見てみたいなあ」と思っていたのだが,聖ソフィアの説明のあたりで,それと同じような印象を受けたのだ.

ということで読んでみたのだが,小説としては「えらく淡白で物足りない」というのが正直なところ.
史実に基づく物語なので,どうしても限界はあるのだろうけど,もうちょっと小説っぽい波乱万丈というか,虚構の強みとでもいうものを全面的に出してもらいたかった.

その反面,建物の紹介や歴史的背景についての情報は分かりやすく書かれているので,ガイドブックというか,教科書というか,そういうものとしては非常にいいかもしれない.
とりあえず聖ソフイアとスレイマニエ・ジャーミーは実物を見てみたくなった.

しかし,夢枕獏の本を読むのはずいぶん久しぶりなのだが,昔読んでいた本に比べると,全然違っているなあ.
『キマイラ』シリーズとかはリアルタイムで読んでいたんだけど,あれも続きは本当に出るんだろうか...