2006年11月23日

『銃とチョコレート』乙一

[ Book]

富豪の家から宝物を盗み,カードを残して去っていく怪盗「ゴディバ」と,それを追う名探偵「ロイズ」.
そのロイズにあこがれる少年「リンツ」は,父の遺した聖書からゴディバと関係がありそうな地図を見つける.
リンツはロイズに地図のことを連絡し,それに応えてロイズがリンツの住む街にやってきた...

乙一の新作,というか,買ったときはまだ新作だったのだが,しばらく積読状態のまま放置されていた.
講談社のミステリーランドという少年少女向けのレーベルから出版されている本なので,基本的には児童文学,というのとはちょっと違うか,まあ,ポプラ社の怪人20面相シリーズみたいな感じの位置づけ.なので,文章も小学生向けで,漢字もあまり使われていない.
しかし,この作品,小学生に読ませていいのか?

この本,装丁がかなり凝っているのだが,全体的に不気味で,挿絵にいたっては小学生が見ると夢の中でうなされる可能性も無きにしも非ずなくらい.
小学生向けの本でこの装丁はどうなんだ?と思いつつ読み始めたのだが,冒頭こそ小学生向けの探偵物,あるいは世界名作劇場的な展開なのだが,途中からは...
話の展開もさることながら,ところどころで出てくる移民問題や差別感情,国家システムの話などなど,「いや,それは小学生が読んでも,よく分からないだろう?」的なことが結構出てくる.
なるほど,この本の内容なら,この装丁でもいいかもしれんな.


で,読み終わっての感想だが,かなり面白かった.
冒頭で「小学生に読ませていいのか?」と書いたが,いろいろと紆余曲折があり,世界の邪悪さに触れつつも,最後には世界に希望を持たせてキッチリときれいにまとめられている.
そういう意味では,これくらいの邪悪さや複雑さを含んだ本を小学生のうちから読ませていたほうが,その子のためになるのかもしれない.
ということで,小学生(ただし高学年くらい?)にもオススメだし,大人でも十分楽しめる作品だろう.


・おまけ
このミステリーランドだが,今後予定されている作家の中に上遠野公平の名前があった.
このレーベルで,いったいどういう話を書くんだろう.かなり楽しみだ.