2007年01月05日

『黎明に叛くもの』宇月原晴明

[ Book]

戦国時代,ペルシャ伝来の暗殺術「波山の法」を身につけた二人の青年が天下二分の夢を誓って山を降りた.
青年の一人は「斉藤道三」として美濃の国主となり,もう一人の青年は「松永秀久」として京の奉行にまでなるが,その前に若き「織田信長」が昇る日輪のごとく現れて...

同じ作者の作品で直木賞候補にもなった『安徳天皇漂海記』が面白いというので,その前哨戦として読んだ作品.松山市立中央図書館所蔵.

主人公の松永秀久というのは,戦国時代の実在の武将で,将軍を殺し,主君を殺し,東大寺の大仏殿を焼き討ちした大悪人として悪名高い人物なのだが,イスラムの暗殺教団の技術と知識を身につけていたという設定.
実在の人物をベースにしているので作中で起こる事件も全部史実のとおりなのだが,その裏側でどのような暗闘があったかという話になっている.

設定が設定だけに色々と怪しいアイテムや知識が出てきて,そういうのが好きな人には堪らない作品.
ネットで検索した書評では「豪華絢爛」という表現がよく使われていたのだが,確かにそんな感じで,少々詰め込みすぎじゃないか?と思わなくもなかった.

で,そういう怪しい要素を抜いていくと,何も持っていない身から自身の才覚のみでのし上がっていった人物が,恵まれた身分の生まれで,しかも自分よりも大きな器な人物と対面したときの憤りや焦り,哀しみ,といったものが中心になるのかな.
そのあたりの関係が「明けの明星」と「日輪」として作中で何度も表現されているのだが,そのくだりが非常にいいので,長くなるが引用.

幼き行者よ、魔王の孤独を思え。永遠に自負を手放さぬものの、果てしない愚かさと哀しみを思え
やがて地平の彼方より偉大なる朝日が昇り、あの星の光をかき消すだろう。忘却を憎む者よ、昇る太陽にあくまでも張り合おうとする誇り高き最後の星を思え。どこまでも黎明に叛くものを、光に逆らう光を思え


十兵衛、おまえは許せるのか。おのれ以外の誰かが日輪であることを! 何者かの光に、おのれが初めからこの世になかったのごとくかき消されてしまうことを!
たとえ星とて、星でしかなかったとて、我らもまたおのれの光を放つものじゃ。信長であろうが誰であろうが、我が光を消させはせぬ。何人が相手であろうとも、光を消すのは、燈火を消す者たる波山の法を継ぐ者よ


十兵衛、あれらの星を想え、俺もおまえもともにその一つである天を満たす星々を想え。その一つ一つが日輪であるはずの暁を想え。おまえが日輪として地平から昇る明日を想え


ストーリーとしても面白いので,怪しげな要素に耐性がある人は読んでみるといいかも.