2007年11月23日

『人を動かす情報術』春木良且

[ Book]

以前読んだ『情報って何だろう』という岩波のジュニア新書を書いた著者の新刊.といっても3ヶ月くらい前の本だが.
前著がよくまとまっていたので店頭で手に取ってみて,パラパラとめくって良さそうだったので買ってみたのだが,思いのほか良かった.

タイトルだけで判断すると怪しげなノウハウ本みたいに思うかもしれないが,かなりちゃんとした本.
内容的には「人を動かす情報術」というよりは「人に動かされない情報術」または「人に食い物にされない情報術」という感じか.

人の意思決定は情報に基づいているので,与える情報を操作することで相手の意思決定を操作できる,つまり相手を動かすことができる,というのがタイトルの由来なのだろう.

でも,内容的には「どのような情報を与えれば相手の意思決定を操作できるか」というよりも,そのための手法を説明することで,相手のいいように動かされないようにする,つまりは受け手の情報リテラシー(メディア・リテラシー)を高めることに主眼が置かれているような気がする.
そのために,色々な理論や事例を用いてある.事例はともかく,理論の方は知らない人には取っつきにくいし知っている人には当たり前のことで冗長に感じるかもしれないが,色々な理論と事例がまとまっているという点ではとても良い本だと思う.

著者の主張の一つである「情報スタイリング」については,考え方はよく分かるのだが,具体的にはどうすればいいのかがよく分からなかった.
校正モデルも理屈としてはよく分かるんだけど,現実世界に実装できるのかなあ.いや,技術的には実装はできるんだろうけど,校正したものが多くの人に読まれない限り,正しい情報は世間に広がらないので意味はないだろうし.

ということで,ちょっと消化不良な点もないことはないのだが,全体的にはとても良い本だと思う.

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