2004年09月22日

『海馬 脳は疲れない』池谷裕二+糸井重里

[ Book]

脳の若手研究者(30代)と糸井重里の対談集.
この間,松山市立中央図書館に行ったとき,ついでに借りた本だったのだが,これが大当たり.
初版が2002年で,そのときにちょっと話題になっていたのだが,これまで読んだことがなかった.で,今回読みながら,どうしてその当時に読まなかったのかと後悔したくらい面白かった.

手元に置いておきたいので購入決定.結構評判になったし,少し古めの本だから,古本屋をチェックしておけばいつかは見つかるだろう.

以下は引用.

 ですから、脳の機能が低下しているかどうかということよりも、まわりの世界を新鮮に見ていられるかどうかということのほうを、ずっと気にしたほうがいいでしょう。  生きることに慣れてはいけないんです。慣れた瞬間から、まわりの世界はつまらないものに見えてしまう。慣れていない子どものような視点で世界を見ていれば、大人の脳は想像以上に潜在能力を発揮するんですよ。
脳の組み合わせ能力というのは自分の予想以上に発展するので、今現在自分より上の人をことさらすごいと思う必要もありません。
 新規な刺激にさらされている人は、いつでも入力の判断をする海馬に刺激があるから、海馬の細胞が増えていく割合と消えていく割合とでは、細胞の増えていく割合が加速していく……と類推できますね。  そして、海馬が大きくなると処理する能力が増えますから、さらに対象にする刺激が増えると言う、そういうポジティブな回転が起きるのではないかと考えています。
 ところが、側坐核の神経細胞はやっかいなことに、なかなか活動してくれないのです。どうすれば活動をはじめるかというと、ある程度の刺激が来た時だけです。つまり、「刺激が与えられるとさらに活動してくれる」ということでして……やる気がない場合でもやりはじめるしかない、ということなんですね。そのかわり、一度はじめると、やっているうちに側坐核が自己興奮してきて、集中力が高まって気分が乗ってくる。だから「やる気がないなぁとおもっても、実際にやりはじめてみるしかない」のです。
 そう思うと、日常生活においていかに新しい視点を加えることが大切かということがわかります新たなパターンを一つ入れるだけで、統計学的に言ってかなり認識の組み合わせ数が増えますから。
 脳を使いまくるようになるきっかけは人によって違うでしょうから、ぼくがここで「こうしなさい」と言うことはできません。ただ少なくとも、「脳は使い尽くすことができる」と気づきさえすれば、どんな年齢であっても、脳を使い尽くすほうに枝分かれできるんです。それを認識するかしないかで、ずいぶん違うと思いますよ。  ある時にふと、「これおもしろいなぁ」と思って、自分の視点にひとつ新しいものが加われば、脳の中のパターン認識が飛躍的に増える……。それをくりかえせば、人の考えというのは驚くほどおもしろいものに発達するんです。  新しい視点を加えることは自分の努力でできるし、教えてもらったりして外部から影響を受けることもできる。そのこと自体には、何にも難しいことはないというか、誰にでもできることだと思います。
 脳に可塑性が存在するという事実は、個人が潜在的な進化の可能性を秘めていることを意味している。これは誰の脳にも約束されている。個を超えた可塑性の普遍性は、科学的に実証されているのだ。つまり、当面の問題は、自分に備わった可塑性の権利を個々が行使するか否かに絞られる。今回の対談で私はこの事実を改めて痛感した。すべては本人の意思の問題であると。