2006年03月25日

『スラムオンライン』桜坂洋

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ぼくはテツオになる。

現実世界に馴染めず,ネット対戦格闘ゲームの世界での最強を目指す「ぼく」は,大学の講義で「布美子」と知り合う.
彼女と共に現実世界の街を歩く一方,バーチャルの街では無敵と噂される「辻斬りジャック」を探す日々.
そして,最強の座を賭けた武闘会を順調に勝ち進み,決勝戦を前にした時...

昨年の個人的ランキングの活字フィクション部門で第一位だった『All You Need Is Kill』の作者の単行本としては最新作? 松山市立中央図書館所蔵.

最近は時間を食いすぎるということでゲームには手を出さないようにしているのだが,基本的にゲームは好き.
しかし,反射神経と手先の器用さに難があるため,格闘ゲームは鬼門.
その格闘ゲームが本作品の重要な小道具(むしろ大道具?)ということで、読む前はそのあたりが少々不安だった.
しかし,「格闘ゲーム=後出しアリのジャンケン」という作中の説明さえ飲み込めば,格闘シーンの雰囲気は何となくつかめる.でも,格闘ゲームをある程度やりこんだ人だったら,もっと楽しめるだろう.

その格闘(ゲーム)シーンの描写もウリの一つなんだろうけど,それを充分に楽しめないとしても非常に面白かった.
『All You Need Is Kill』もベースはそうだったのだが,本作品も一種の青春小説.
というか,格闘ゲームを題材にしてはいるが,その骨格だけを取り出してみると,直球ど真ん中な青春小説だ.
今回の出版社は早川書房でもあることだし,ゲームを題材にしているというだけで敬遠するのではなく,幅広い人に読んでもらいたい.

最後に気に入った箇所を引用.

その事実を、ありのまま受け入れよう。あのとき電子の海で骸となり沈んだテツオの死体もまた、いまのぼくの礎だ。
 あるいは、その人物だけでなく、誰もが、リアルな世界ではロールプレイをしているのかもしれない。誰でもそうなのだ。僕らは、すこしずつ仮面をかぶって、リアルな世界をなんとか生きている。そうすることで本当は居場所なんてない世界に自分を同化させようとしているのだった。
「ならば一回だけやってよし」
「けち」


・おまけ
この記事を書くにあたって,パラパラとめくってみたところ,なぜか石田衣良を思い出してしまった.
文体のせいか,それともバーチャルも含まれているとはいえ,「街」が舞台になっているせいだろうか?