2004年06月06日

『マネー・ボール』マイケル・ルイス

[ Book]

タイトルだけでは何の本かわからないだろうが,表紙を見ればすぐ分かる.タイトルの「ボール」は野球のボールのことで,メジャーリーグにある貧乏球団オークランド・アスレチックスについて書かれた本.
なぜその貧乏球団のことが本になるのかというと,これまでの野球の考え方を大きく覆した選手採用と戦術によって野球革命を起こしつつあるかららしい.

詳しくは本を読んでもらうとして,その基本は「アウトにならないことが最優先」という考え方.打席に限って考えると「アウトにならない=出塁する」なので,出塁率の高い選手を優先して獲得する.
出塁すればいいので,ヒットでなくても四球でもOK.
アウトの確率が高い盗塁やほぼ確実にアウトが発生するバントは行わないので,足の速い選手は必要ない.
その結果,打率が低くて(ただし選球眼は良い)足の遅い選手,つまり,これまで評価されてこなかったために年棒の安い選手がアスレチックスでは必要とされる.
そして,このユニークな選手採用と戦術の結果,アスレチックスは選手の年棒合計に比べると勝率が極端に高いチームとして生まれ変わることになる.

導入にあたってのスカウトやコーチとの衝突が,生産現場に科学的管理法を導入したときの衝突もこんな風だったのだろうかと思えて興味深かった.
導入することで結果を出し,しかもその渦中にいるにもかかわらず,アスレチックスのやり方に未だに半信半疑のコーチや選手がいるというのは,人の考え方を変えることの難しさを現しているのだろう(第12章).

気に入ったパラグラフがあったので引用しておく(125-126)

野球がらみの知性とは,難解な野球データを解説できる能力をさす,という誤解が広まってしまった.ジェイムズの読者の多くは,データが主役ではないことをわかっていなかった.主役は解釈なのだ.地球上の出来事をほんの少しでも把握可能にするような解釈.なのに,肝心な点がいつのまにか見失われてしまった.≪もしかするとわれわれは,大量の数字に麻痺してしまい,そこから得られるかすかな真実を吸収できなくなっているのかもしれない≫

野球のことはほとんどわからないし,特にメジャーリーグになるとさらに分かっていないのだが,それでも面白く読めた.やっぱりマイケル・ルイスの本は基本的に面白いなあ.