2004年11月01日

『見知らぬ遊戯 鑑定医シャルル』藤本ひとみ

[ Book]

学生さんに貸してもらった本なのだが,私にとって藤本ひとみと言えば何といっても『ハプスブルクの宝剣』(家族と民族を捨ててハプスブルク王家に仕えたユダヤ人の愛と友情と絶望と再生の物語)!
それ以外にも『ミーハー英雄伝』(世界史上の偉人についての歴史エッセイ?)であったり,『黄金拍車』(ジャンヌ・ダルクの時代にタイムスリップした高校生の話:別名で執筆)であったりで,私の中では藤本ひとみ=歴史小説家になっている(そういえば,買ったけど未読のやつもあるな).

なので,この作品も18世紀くらいを舞台にした歴史物だと思って読み始めたのだが,数ページ読んだところで「YMCAを合唱」とあった.
YMCAを合唱? それって西城秀樹の「ヤングマン」のオリジナルのYMCA? なぜ18世紀にヤングマン?
改めて読み直してみると,冒頭から地下鉄が走っていたり,ネオンが輝いていたりしている.つまり,この作品の舞台は現代だったのだ.うーむ,先入観とは恐ろしい...

で,脳内で舞台を現代に設定し直した上で改めて読んでいったわけだが,読み進めていくうちにもう一つの事実に気づかされた.藤本ひとみは歴史小説も書くけど,元々はコバルト文庫でブイブイ言わせていた少女小説家だったのだ.

私はコバルト文庫に対して偏見はないし(現在活躍中の女性作家の多くはコバルト文庫出身者),実際,私の部屋にもコバルト文庫が十数冊あったりする(実家のも合わせると50冊持ってるかな).
しかし,私がコバルト文庫で読んでいたのはファンタジー物・伝奇物であって,藤本ひとみのコバルト時代の作品は読んだことはない.
しかし,ウワサは聞いたことがある.平凡な主人公(女性)と,なぜか彼女を愛する美形の脇役.まさにコバルトの王道のような作品を書いていたらしい.

そして,この作品にも美形の脇役(というかタイトルロールだから主役?)が登場し,平凡(の範疇だよな?)な女性主人公に惚れてしまうのである.うーむ...

あと,この作品はサイコ・サスペンスということで,異常心理の犯人探しが一つの見せ場になっている.しかし,この犯人がかなり最初のうちに分かってしまったのだ.
ヒントの出し方といい,登場人物の少なさといい,これは意図的なものだと思うのだが,おかげでその後の楽しみはカップルが成立するかどうかと,心理学の薀蓄&精神分析しかなかった.サイコ・サスペンスとしてはちょっと問題があるような...

ということで,少々キビシイ感想になってしまったが,これは作者が『ハプスブルクの宝剣』という名作を書いているせいで採点がきつくなってしまったため.
普通に読めば,それなりに楽しめるんだと思う.ネットの書評では結構高得点だしね.


おまけ
この記事を書くために色々と検索していたら,コバルト時代の代表作である「まんが家マリナ」シリーズと密接な関係があるらしい.
複数のシリーズがリンクしている作品群は好きなんだが,さすがに今から「コバルトの王道」的なシリーズを読むのはちょっとなあ...