2004年12月17日

『失はれる物語』乙一

[ Book]

乙一の小説は基本的に買うことにしているのだが,これは買っていなかった.というのも,既に持っている本に収められている作品の再録が中心で,書下ろしが1本しかなかったためだ.
作者もあとがきで書いているが,こういう本が成立してしまうということがライトノベルというジャンルが置かれた立場を表しているのだろうが,完全に再録本にしないで1本だけ書下ろしを入れるというのが角川書店の商売上手なところだろう.

しかし,そういう戦略にみすみす嵌るのも癪なので,今回も松山市立中央図書館のお世話になった.常に貸出中だったのは人気があるためか,それとも私のように考えて図書館で済ます人が多いためか...

で,内容の方だが,再録されたものには目もくれず,巻末の書き下ろし作品『マリアの指』だけを読んだ.
姉の友人である「マリア」が鉄道自殺した現場に居合わせた主人公はマリアの指を拾うが,マリアに恋心を抱いていた主人公はその指をホルマリン漬けにして隠し持ってしまう.
そしてマリアの死因に疑問を抱いた主人公は,マリアの指を探し続けるマリアの恋人やその友人からマリアについての話を聞くことに...

という感じで,猟奇っぽい雰囲気が漂っているが,乾いた感じで描かれているので,実際にはそれほど気持ち悪いわけではない.同じ作者の『GOTH』に似た感じ.
非常によく作りこまれているとは思うのだが,感動はしなかった.まあ,どちらかといえば「黒乙一」系の話だしね.

ちなみに,2003年の秋に書店でこの本を見たときには「えらく力を入れてるなあ,角川書店」と唸ってしまった.
amazonなどでも書影は見れるが,これは実際に手にとってもらったほうがインパクトがあると思う.デザイン系の雑誌でも取り上げられたようなので,世間的にもインパクトのある装丁なんだろう.