2005年01月08日

『トポスの知』河合隼雄・中村雄二郎

[ Book]

以前読んだ宮沢章夫のエッセイで紹介されていたので松山市立中央図書館で借りてみた.
副題が「箱庭療法の世界」ということで,砂が入った箱の上に色々なものを置くことを通じて状況の改善を図る心理療法である「箱庭療法」の紹介をしている本.
巻頭に実際に作られた箱庭の写真が掲載されてあるので,それを適宜参照しながら本文を読み進めることになる.写真をカラーで掲載するにはこのスタイルしかなかったのだろうけど,ちょっと忙しい.

箱庭療法については映画の一シーンか何かで見たことがあるくらいなのだが,単に精神状況を判断するための手段だと思ってた.しかし,これが実際には治療効果が高いのだそうだ.
「理屈は分からないが効果はある」という科学的見地からは微妙な立場の扱いもこの本のテーマだし,最後の方には都市論がどうのこうのという学術的な話も出てくる.
しかし,そういうのを全く無視して,箱庭療法とはどういうものか,そして実際にどういう問題を抱えている人がどういう箱庭を作り,それが状況の変化とともに箱庭がどのように変化していくかということを読み進めていくだけでも十分面白い.

個人的には,問題を抱えた子供を持つ母親が作った箱庭に同じような立場の母親が手を加えたエピソードと箱庭の枠の使い方についての話が面白かった.

ということで,気に入った箇所をいくつか引用.

中村:そうだとすると、本人の気持ちの痼(しこり)が解けてきたとはいうけれども、まだ完全には自由になっていないということですか。
河合:そう言えますね。この人にとっては、完全に自由になったら、おそらくもう壊れてしまうわけでしょうね。
中村:そうすると、普通の意味だったらまだ病いは完全に治っていないけれども、そのまま生きるのが、その人にとって無理のない生き方なんですね。


河合:置いて表現できて、だれか他人がわかるということは、人間にとって結局はものすごいことなんでしょうね。わかるだけでいいんです。何も言わなくたっていいんです。そこがすごいんですね。


中村:箱庭の面白いのは、既成のでき上がったパーツを使っていることですね。実をいうと、われわれが世界をイメージとしてつくり上げるのは、結局「組み合わせ」の問題なんですね。しかも組み合わせによって、もともとの形の意味は変わってしまう。そのことの意味が非常に大きいのじゃないかと思うんです。私が初めに箱庭のことを知って、アッと思ったのはまさにその点なんです。全くの自由というのは、近代の一つの迷妄であって、ある形が与えられている、基本的なものがあることによって、かえって自由になれるんです。


中村:そうではなくて、いつの間にかわれわれの社会の中ででき上がり物質化されているようなあれこれのイメージが用意されている。その組み合わせで表現するというところに、一見ありきたりなように見えながら、そういうことを通して一番うまく自分たちの心のなかの願望を引き出す仕掛けになっているんですね。