2005年03月05日

『煙か土か食い物』舞城王太郎

[ Book]

アメリカのER(救命病棟)で働く外科医の元に,福井県に住む母が連続主婦殴打生き埋め事件の被害者になり意識不明の重体との連絡が入る.
急遽,福井に戻った主人公は,復讐のために,旧友や兄弟の力を借りながら犯人を探すのだが...

あらすじとしてはこれで間違っていないのだが,半分くらい(半分以上?)は暴力に満ちた家族の思い出話で,残りが現在の犯人探し.
メフィスト賞を受賞しているのだから一応はミステリーなのだろうし,密室や見立て,暗号解読などのミステリー的要素も出てくる.でも,これはミステリーとは言わないだろう?

推理の手がかりになるような材料がほとんど出てこないうちに,主人公が直感的に答えを出してしまうし,その答えがまた普通は考えないようなものばかり.ハッキリ言ってめちゃくちゃである.
ストーリー展開も同様で,はっきり言って突拍子もないことの連続.

それでも高く評価されているのはその独特の文体のせいだろう.読点をほとんど使わず短い文章を畳み掛けるように叩き付ける文体.多用される体言止めカタカナ・イングリッシュ擬音語.読みやすさなんて微塵も考えないので改行もされない.会話文についても改行されず一人称の地の文の中に埋め込まれてるので一つの段落がやたらと長くなっている.

かと思えば,一文だけで一段落.

しかもその前後に改行が入り,その文章だけが目立つように演出されていたりする.

これらの文体と突拍子もないストーリー展開が相まって,スピード感のある作品に仕上がっている.
ネットでのレビューの中には「石田衣良を若くした感じ」としたものもあったが,言われてみればそうかもしれない.
でも,石田衣良の作品は「スタイリッシュ」と表現されることが多いけど,少なくともこの作品は「スタイリッシュ」じゃあないよなあ.福井弁(というのか?)がバリバリ出てくるし,血族の話が中心にあるからか,ちょっと泥臭い感じがする.

とりあえず,もう一作くらい読んでみるかなあ.