2005年06月11日

『勝負の分かれ目』下山進

[ Book]

取引所の電子化がもたらすチャンスにいち早く着目し,通信社から金融情報企業への転身を図ったロイター.
そのチャンスに気づきながらも通信社であることに固執した時事通信.
早くから情報化の利点に気づき,ロイターにライバルと認められた日経新聞.
強者連合として生まれながら時流の流れに取り残されていった,ある意味で日本を象徴しているようなQUICK.
その独自の商品の優秀さと若い企業特有のバイタリティで追撃するブルームバーグ.

情報ベンダー企業の盛衰を描いたルポルタージュであり,国際経済の動きから企業の戦略,情報化,労働組合,ジャーナリズムまで,さまざまテーマを含んだ非常に読み応えのある一冊.

というか,二段組みで550ページというのはちょっと読み応えがありすぎ.

読んでいる最中は時事通信の組合運動の章が退屈で仕方なかったんだが,最後の記者の過労死の話につながってくる以上,無いとまずいんだろうなあ.
色々なテーマが含まれているのだが,著者のメインの主張はどうやらジャーナリズム論の方にあるようだ.
個人的にはジャーナリズムには興味がないので,ジャーナリズム論は別冊にして,企業戦略とか情報かのあたりを中心にして薄くしてくれれば他の人にも勧められるのだが...

ちなみに松山市立中央図書館所蔵なのだが,古本屋で安く発見できたら買おうかな.


最後に気に入った箇所を引用.

 我々の世界は何によって動いているのだろうか。政治だろうか。外交だろうか。いや、違う。政治も、外交も、ある大きな流れを少しだけ変えることのできる調整機能にしかすぎない。流れそのものは、人々が生活をし消費をし、富を蓄積し、投資をするという金の流れ――すなわち経済にある。先のふたつの戦争も、もとはと言えば、もっと豊になりたいという人々の欲求がぶつかりあった結果ではなかったか。株価のひとつひとつ、商品の値段のひとつひとつは、そうした我々の世界を映し出す鏡なのだ。資本主義である限り、この分野こそが成長していくのだ。
 技術というものはいったん発明されてしまえば、それを使わないでいることはできないのだ。昔のやり方に拘泥するのは、馬車で、自動車と競争をしようとするのと同じだ。
しかし、活字がなくなることの本当の意味は、合理化だけにあったのではない。デジタル化したデータは、回線を通じて引き出せる。もう紙である必要はない。つまり『総合情報化戦略』の本当の成功は、デジタル化したデータをどう使うかにかかっていた。
「誰に対してもわかる言葉で自分の仕事を説明すること。共通のわかりやすい言葉で縦横に語り合え」太田哲夫QUICK社長