2005年08月04日

『熊から王へ』中沢新一

[ Book]

大学での講義(=比較宗教論)が書籍化された『カイエ・ソバージュ』全5冊の2巻目.前巻同様,松山市立中央図書館所蔵.

今巻では,前巻でも出てきていた「対称性」というのが鍵となっている.
人間は狩猟・漁労・採集を通じて自然界からさまざまなものを手に入れているわけだが,それを一方的に奪ったままにするのではなく,獲物の作法に従って解体・葬送することで,あるいは牝や仔は獲物としないなどの決まりを守ることで,自然との間に対称的な関係を成立させてきたのであり,それを伝えるためにさまざまな神話や民話があるとしている.

で,その自然の象徴がタイトルにもなっている熊(海においてはクジラ)であり,環太平洋の多くの地域には熊と対称性をモチーフにした神話が多く残されている.
しかし,人間が進歩して技術(ハイデッガーのいうところのテクネー)を手に入れることによって,この対称性が変化していった.
人間世界では「文化」によって「首長」が部族を治めていたのだが,人間が自然を自らのものにすることによって,「文化」と「自然」の権力を両方持つ「王」を生み出していったのだ.

対称性を失った人間の作る国家は,その由来からして「野蛮」なのだが,その「野蛮」を抑えるため,「宗教」という知恵の教えを発展させていくことになる.

というのが,大雑把なあらすじかな.流動的知性とか「人喰い」とか,かなり端折った部分もあるけど.
前巻よりも学術っぽい話が中心になっているが,やはり大学の講義を書籍化したものということで,かなり平易に書かれている.