2005年08月23日

『マルドゥック・スクランブル 全3巻』冲方丁

[ Book]

大企業に所属する賭博師シェルによって爆殺された少女娼婦バロット.しかし,彼女は委任事件担当官によって蘇生され,人工皮膚を利用した電子干渉能力と空間認識能力,そしてネズミ型万能兵器にして相棒であるウフコックを武器に,事件の当事者としてシェルと対決することに...

以前紹介した『第六大陸』を押さえて第24回日本SF大賞を受賞した作品.
その筋では評価が高かったのだが,あらすじ&本屋での立ち読みの結果,急いで読む必要もないだろうと判断したのだが,古本屋で安く売られていたのに遭遇したので購入.

はっきり言って1巻を読み終わった時点では「期待はずれだな」と思っていた.
しかし,これが2巻,というよりもカジノに舞台が移ると,読むのが止まらなくなるくらい面白くなった.

ポーカー,ルーレット,ブラックジャックとプレイするゲームは変わっていくのだが,特にブラックジャックでの勝負が面白すぎる.
ブラックジャックというのは基本的に運だけのゲームだと思っていたのだが,実は非常に戦略(戦術?)的なゲームであるらしい.
本作でも色々な戦略が紹介されていて,それだけでも面白かったのだが,それ以上に勝負の緊張感というか,そういうものが伝わってきて,その前後にある銃撃戦よりもスリリングで,終わった後,無性にポーカーやブラックジャックをやりたくなってしまった.

あと,ルーレットとブラックジャックで対決するディーラーの台詞もカッコいい.
ということで,気に入った箇所を少し省略しつつ引用を.

『最大限のバックアップをする』ウフコック
「いるべき場所、いるべき時間に、そこにいるようにしな。着るべき服、言うべき言葉、整えるべき髪型、身につけるべき指輪と一緒に。女らしさは運と同じさ。運の使い方を知ってる女が、一番の女らしい女なんだ。そういう女に限って運は右に回るのさ」ベル・ウィング
「それら三つのうち、どれかを持っているかどうか……それが人生の分かれ目だ。なかった人間から順番に敗北していく
君がそれら三つのうちどれを持っているのかは知らないが、それがあるからこそ、生かされている。そのことを忘れてはいけない」アシュレイ・ハーベスト
 ――私はあなたを使いたい。あなたが望むような仕方で。
 それだけは間違いのない真実であるというように、手袋を優しく撫でた。それは赤ん坊の頬を撫でながら、あなたは望まれて生まれた子だと告げるのに似ていた。


・おまけ
ブラックジャックの対決シーンで,流動的知性という単語が出てきた.
流動的知性は現在読んでいる中沢新一のカイエ・ソバージュのシリーズを通じてのキーとなる概念でもあるのだが,こんなところで出会うとは.
オリジナルはスティーヴン・ミズンという人の本らしいが,読んでみようかなあ.