2005年12月06日

『灰色の輝ける贈り物』アリステア・マクラウド

[ Book]

カナダの東部にあるケープ・ブレトン島を舞台に,その地に生きる漁師や鉱夫とその子供たちの絆と断絶を描いた短編集.

ネットで同じ作者の『彼方なる歌に耳を澄ませよ』という小説の存在を知ったので,その前哨戦として松山市立中央図書館で借りてきた.

文学方面には全く疎いので,この作者のことは全然知らなかったのだが,あとがきによるとカナダでは有名作家らしい.

舞台になっているケープ・ブレトン島は『赤毛のアン』の舞台になっているプリンス・エドワード島の隣にあるのだが,何だかイメージが違う.
『赤毛のアン』はアニメでしか知らないのだが,そこで描かれるプリンス・エドワード島は冬は雪が積もるものの,それほど過酷な自然環境の土地ではないというイメージがあった.しかし,本作の舞台になっているケープ・ブレトン島は,その隣島のはずのなのに,かなり過酷っぽい.
そのケープ・ブレトン島は移民の島らしく,本作の登場人物は漁師や鉱夫として生計を立てており,これは作者自身もそうだったらしい(作者は苦学して大学教授になったようだ).

短編集ということで8編が収められているのだが,その背景にあるのは漁師や鉱夫,羊飼いなどの厳しい労働と生活,そして,それらに携わる人々の誇りと葛藤.
それらの厳しい仕事で家族を養っている本人たちは仕事に対して誇りを持っているんだけど,やはり仕事としては厳しいので,子供たちにはやって欲しくない,でも,一緒に同じ仕事をして欲しい(あるいは仕事をしてもらわないと生活できない)という気持ちもあるし,子供たちが都会に出て現代風の仕事に就くと寂しさも感じるわけだ.

基本的に文学作品は苦手なのだが,『船』,『広大な闇』,『夏の終わり』が良かった.
表題作は読んでいて小学校の教科書に載っていた芥川龍之介の『トロッコ』を思い出してしまったのだが,個人的にはイマイチだった.
もう1冊の短編集のタイトルが『冬の犬』らしいので,『夏の終わり』をタイトルにした方が対になっていいと思うのだが,『夏の終わり』だとありふれてるからなあ.


・おまけ
どうでもいいことだが,amazonの書評が同じ作者の短編集である『冬の犬』と混じっているぞ.
カナダでは一冊の短編集だったものを日本では分けて出版したというから,それはそれで筋が通っているのかもしれないが...