2005年12月18日

『水滸伝 曙光の章』北方謙三

[ Book]

言わずと知れた『水滸伝』を北方謙三が翻案したもの.松山市立中央図書館所蔵.

私にとって北方謙三という作家は「ハードボイルド作家」&「人生相談の人」で,特に後者の名台詞があまりにも印象的だったため(気になる人は「北方謙三 人生相談」でググってみよう),これまで作品を読んでみようという気にはならなかった.
しかし最近ではハードボイルド作家というよりも歴史物の作家として活躍していて,しかも評価がかなり高い.
なので,ハードボイルド物はともかく,歴史物は一度読んでみようかなと思っていた.

そんな折,これまで取り掛かっていた『水滸伝』が完結し,しかも司馬遼太郎賞を受賞したというニュースを見かけた.ちょうどいい機会なので,読んでみることにしよう.

ということで,第一巻.
通常,『水滸伝』といえば洪大尉が魔星を解放してしまうところから始まり(横山光輝のマンガとコーエーのゲームだけ?),その魔星の化身である108人の好漢が自然発生的に集合していく.
しかし,本作は最初から政府転覆という目的を持った宋江がスカウト係を全国各地に派遣していて,魔星のマの字も出てこない(正確には魔星の名前が各章のタイトルになっている).
確かに現実的に話を展開しようと思えば,魔星という超自然的存在は前面に出せないので,108人が集結する必然性がかなり薄くなってしまうからなあ.

そう,この『水滸伝』の特徴は,そのリアルさ,というか現実味にあると思う.
水滸伝に登場する108人の好漢たちは,今風に言えば反政府テロリストなわけで,政府転覆のためには自分たちの仲間を増やさなくてはならない.
そのために全国各地にスカウトを派遣していて,これはと思った人材には手書きのパンフレットを渡したりするのだ.なんだか一昔前の過激派みたいだな(笑).

もう一つのリアルさというのが兵站面をきっちり考えているところ.
政府と戦うためには資金が必要になるわけだが,マンガでは主人公たちは「職業:山賊」だったので経済観念はナッシングだし,ゲームでは普通に開墾とか狩猟とかで金を稼いでいたような気がする.そんなはした金で国と戦えるのだろうか?
本作ではそのあたりを「塩の道」という存在を置くことでクリアしている.当時の塩は貴重品で国の専売品だったのだが,その密輸ルートを開発することで資金を確保しようというわけだ.

また,108人の好漢全員にちゃんとしたエピソードを考えているようで(そのために章のタイトルが魔星の名前になっている),この第1巻でも「こんな登場人物がいたんだ」というような人物が多数登場している.

と,こんな感じで今までの『水滸伝』とはかなり違ったものになっていそう.先を読むのが楽しみだ.