2006年02月08日

『水滸伝 天地の章』北方謙三

[ Book]

北方謙三による『水滸伝』の第11巻.松山市立中央図書館所蔵.

本巻では梁山泊による城郭解放戦と梁山泊のリーダーの一人である晁蓋の暗殺などが描かれている.

梁山泊のリーダーは宋江というのが一般的なのだが,そもそも梁山泊に本拠を構えたのは晁蓋なので(その前に巣食っていた山賊から乗っ取った),初期梁山泊のリーダーは晁蓋だ.
で,原典では晁蓋が途中で死に,その後を宋江が継ぐ形になっているのだが,北方水滸伝では最初から宋江と晁蓋の2人が同格のリーダーとして活動していた.

まあ,実際のリーダーは武力も知力もある晁蓋で,宋江は飾りというか,人徳で人を惹き付けるだけの存在.その下に実務家の呉用がいて,この三人で梁山泊を指揮してきたわけだ.

この三人,それぞれ性格が違っており,最終目標である宋国打倒への道筋も微妙に違っている.
梁山泊が小さいときにはそれでも良かったのだが,梁山泊が力をつけてくると,当初は夢物語と思われていたような最終目標も,かなり現実味を帯びてくる.そろそろ本格的にどういう道筋を辿るかを決定しなければならない.
そこで慎重派の宋江と過激派の晁蓋の意見が対立し,そのことが最終的な暗殺の背景にもなっている.

トップの意見対立のために派閥が形成され,それが内部抗争につながる,とかいう話だと企業小説みたいになってしまうのだが,部下たちは派閥を作ってはいけないと考えるし,トップも意見の対立に部下を巻き込んではいけないという点では意見が一致しているので,そういうドロドロした話にはなっていない.
でも,本巻では配置転換されて自棄になる老人とかも出てくるし,北方水滸伝は一種の企業小説としても読めるのかもしれないなあ.