2006年03月21日

『アマゾン・ドット・コムの光と影』横田増生

[ Book]

タイトルには「アマゾン・ドット・コム」とあるが,実際は日本のamazon.co.jpの物流センターでアルバイトとして実際に働いてみたフリーライターによるルポ.副題は「躍進するIT企業 階層化する労働現場」.

松山はそれなりの都市なので日常生活を送る上で不便はあまり感じないのだが,珍しいものを買おうとすると見つからないことがある.
そういう時はネット経由で購入することになるのだが,そのときに問題になるのが送料.
ある程度の金額になると無料になるところが多いが,アマゾンの場合,これが1500円以上なら無料という思い切った送料設定になっている.
これを実現しているのが,本書で描かれている物流センターのアルバイト.

アメリカでアマゾンが登場した当初は書籍の安売りで有名になったのだが,日本では再販売価格維持制度のため,新刊本は定価でしか販売できない.さらに店舗取り寄せと違って実店舗をもたないアマゾンでの買い物には送料がかかる.
それを考えると,アマゾンは日本で成功しないだろうと思われていたのだが,実際にはかなりの売上を誇るようになり,今では書籍以外の販売でもかなり強力なプレイヤーになっている.

これを実現したのが,膨大な在庫と充実したデータベース,そして1500円以上は送料無料という思い切った送料設定.
特にこの送料設定については以前から不思議だったのだが,著者は物流業界の業界紙に携わっていた関係で,このあたりのことを実際の数字を挙げながら詳しく書いてくれている.
他にもアマゾンの戦略や業界慣行の話などが書かれていて,以前に佐野真一の『だれが本を殺すのか』を読んだときのような面白さを感じた.

その一方,著者としてはこちらがメインだったと思うのだが,労働現場の実情については紙面を割いているほどには興味がもてなかった.
それほど高くない給料で,厳しい労働を,何の希望もなく行わされているんだ!ということを告発したかったのかもしれないが,「まあ,それはそうだけど...」というのが正直なところ.
正社員に比べると安価なアルバイトによって支えられている産業って,他にもたくさんあるし,アマゾンだけを非難してもどうしようもないからなあ.