2006年04月19日

『きらきらひかる』江國香織

[ Book]

妻の「笑子」はアル中,夫の「睦月」はホモ,と互いに脛に傷を持つ身の2人は見合い結婚をしたばかりの夫婦で,「睦月」には妻公認の愛人「紺」(もちろん男性)がいる.
傍から見ると奇妙だが当事者たちにとっては満足な関係なのだが,そこに両家の親が介入してきて...

一説には江國香織の最高傑作ともされている作品.松山市立中央図書館所蔵.

アル中の妻とホモの夫のセックスレス夫婦という強烈な設定なのは読む前から知っていた.
なので,酒が切れると手が震えたり,酒を止められなくて苦悩するような話,観たことはないけど映画『酒とバラの日々』みたいな要素があるのかと思っていたのだが,全然違っていた.
アル中というよりは,精神病という要素の方が大きいのだが,それも「正常な範囲を逸脱しない」という医者のお墨付きなくらい軽度なものなので,それほどシリアスではない.

で,amazonの書評などを読むと,「これぞ純愛!」的な意見が多い.
多くの人に純愛小説だと思われているのは,「プラトニックであること」と「周囲の反対があること」という条件を満たしているためだと思うのだが,実際に読んでみたところ,私にはそれほど純愛小説というような印象は受けなかった.
というのも,「笑子」側はともかく,「睦月」側には相手への積極的な好意を感じさせるような描写がない(ひたすら優しくはあるのだが)ためだろう.

そういう純愛要素よりも,私にとっては「親の欲には限りがないなあ」という方が印象的だった.
最初は「結婚さえしてくれれば」だったのが,結婚してみると「早く子供を生め」になるわけで,これが夫がホモであることを知らない妻側の親の願望なら分からなくもない.
しかし,これが自分たちの子供がホモであることを知っている夫側の親の願望となると,「あんたら,ちょっと欲張りすぎじゃない?」と思ってしまう.
実際世界では夫がホモでないのに子供ができない夫婦というのはたくさんいるわけで,そういう人たちはさらに強烈なプレッシャーを周囲から受けているんだろうなあ.

なお,どういうオチがつくのかと思っていたら,「...秋里和国?」というようなラストだった.ネタバレになるのでそちらの題名は伏せておくが,あのラストを読んだ時はぶっ飛んだなあ...