2006年05月05日

『魔王』伊坂幸太郎

[ Book]

自分が念じたことを他人に喋らせることのできる能力を持っていることに気づいた「安藤」は,人心を掴みつつある若き政治家にファシズムの匂いを感じ取り,自分ができることを行うことを決意する...

読むのはこれで9作目の伊坂幸太郎作品.
発売当初の昨年11月ごろ,図書館での予約数のあまりの多さに「読めるのは1年以上先だろうな」と諦めていたのだが,思ったよりも早くに予約が消化されたようだ.松山市立中央図書館所蔵.

政治を扱った話という予備知識しかない状態で読み始めたのだが,まず驚いたのが舞台が東京なこと.
これまでの作品はすべて仙台が舞台になっていたんだが,政治,それも国政がテーマとなると仙台では無理があるのかなあ.

などと思っていたら,「魔王」終了.
えっ,まだページは半分近く残ってるのに,どういうこと?
そのままページをめくってみると,そこから「呼吸」という別の作品が始まっていた.この本,長編1本じゃなくて中編2本だったのか.
しかし,「魔王」と「呼吸」で主要な登場人物は同じだし,話もつながっているので,主人公が変わった一つの作品として読むのが正しいのだろう.そう考えると,「呼吸」の舞台は仙台なので,この本も舞台はやっぱり仙台ということになるのか.

で,感想だが,私の中で伊坂幸太郎作品といえばスタイリッシュな会話と伏線張りまくりなストーリー展開なのだが,本作は前者についてはちょっと薄めだし,後者にいたってはかなり薄め.
特に「魔王」の方は,描かれている社会情勢が妙にリアリティがあることや主人公が「考察魔」ということもあって,かなり話が重苦しい.これまでの伊坂幸太郎作品を期待していた人には期待はずれかもしれない.
ただし,主人公が変わった「呼吸」の方はかなり軽めで,爽やかな仕上がりになっている.

ということで,重苦しいけど爽やかで面白いという不思議な作品だった.

しかし,伊坂幸太郎作品で「巨乳」がキーワードになるとは思わなかった.しかも,重苦しい「魔王」の方で.


最後に気に入った箇所を引用.

「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決するんだ」


「私を信用するな。よく、考えろ。そして、選択しろ」