2006年09月09日

『てのひらの迷路』石田衣良

[ Book]

IWGPシリーズでおなじみの直木賞作家である石田衣良の初ショートショート集.松山市立中央図書館所蔵.

このところ,私の中では石田衣良の評価が下がり気味なのだが,この作家は短編の方が上手いと思っているので(初期の作品は長編もいいけど),ちょっと期待して読み始めた.

正直なところ微妙な出来だった.

というのも,普通の小説も入っていて,それはそれなりにオチもついているのでいいんだけど(「銀紙の星」とかは良かった),自身の経験を題材にした私小説というかエッセイみたいな作品がかなりあるのだ.
そういう作品でもキッチリとオチをつけてくれればいいんだけど,そうでないのも多く,そういうのは個人的に評価が低くなってしまうわけだ.
(そういう雰囲気重視の作品が好きな人にとっては逆に評価が高いと思うが)

そのあたりの裏事情が明らかになるのが「短編小説のレシピ」.
この本,もともと書く作品の前に作者からの一言みたいな感じの文章が入っていて,ネタ元だとか作者の考えみたいなのが分かるのだが,この「短編小説のレシピ」は〆切に追われた作者がどのような思考をして作品を生み出しているかが分かる.
この作品の中で,当初はプロットをちゃんと考えて作っていたけど,途中で直木賞を受賞してしまい,取材やらTV出演やらで時間が取れなくなってしまった,みたいなことが書かれてある.

ということは,私の中の石田衣良作品の評価が下がり気味なのは,プロットにかける時間が減っているのを感じ取っているためなんだろうか.
確かに私にとって小説の面白さというのは,描写や雰囲気じゃなくて,作品世界における理屈とその展開が占めるところが大きいからなあ.