2006年11月21日

『風に舞いあがるビニールシート』森絵都

[ Book]

短編集の紹介は毎回苦しむので,出版社による紹介文を引用しよう.

愛しぬくことも愛されぬくこともできなかった日々を、今日も思っている。大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語。

うーん,二つめの文はそのとおりだけど,最初の文は表題作にしか当てはまらないんじゃないか?
ともかく,『まほろ駅前多田便利軒』とともに第135回直木賞を受賞した作品で,これも卒業生にして同僚な人が貸してくれた本.
全部で6つの短編が収められているのだが,共通するテーマは「価値観」になるのかなあ.

最初の「器を探して」は元々パティシエを目指していた女性がいつのまにか天才パティシエの秘書になって振り回される話なのだが,価値観というか仕事観に関する話で,なかなか面白かった.
最後の1ページを読むまでは.
この最後の1ページで「ああっ,ダメなタイプかも...」と期待値が大幅にダウン.

その状態で2本目の「犬の散歩」を読む.私がこの短編集のテーマだと思った「価値観」が一番ストレートに出ている話で,これはオチも面白かった.
しかし,よく考えてみると,妻が犬の餌代のためにスナックで働くのを認める夫ってどうなんだ?

で,3本目の「守護神」.大学が舞台になっているということもあるのだろうが,個人的にはコレが一番好き.
いやぁ,読み始めたときにはこういう展開をする話だとは想像もつかなかった.笑えたし,最後はちゃんと〆てくれていて,とても面白かった.

4本目の「鐘の音」は仏像修復師についての話で,コミカルだった「守護神」と打って変わってシリアスな話.
しかし,コミカルなものからシリアスなものまで,多芸な作家だな.

5本目の「ジェネレーションX」は「守護神」と同じようなコミカルな話.ネットで書評を検索してみるとこの作品を好きな人が多かったけど,個人的には「守護神」の方が好きかな.

そして表題作の「風に舞いあがるビニールシート」.
難民支援の国際機関に所属する女性と現場を渡り歩く男性を描いた作品で,これが最も評価が高い作品だと思う.
しかし,作中の時系列が現在−過去−現在になっていて,最初の現在のパートを読んだ時点で話の筋がだいたい読めてしまうため,オチや展開の意外性を期待して本を読む私にはイマイチだった.

全体的によくできていて,同じ直木賞受賞作でも『まほろ駅前多田便利軒』よりは,こちらの方が好み.でも,その大部分は「守護神」によるもの.
でも,同じ直木賞候補だった伊坂幸太郎の『砂漠』の方が面白かったかな.