2007年05月26日

『旅涯ての地』坂東眞砂子

[ Book]

「マルコ・ポーロ」一族が元王朝から故郷ヴェネチアに戻ってきたとき,一行の中に宋人と倭人の血を引く奴隷「夏桂」がいた.
「マルコ・ポーロ」らが追い求める「聖杯」を巡る騒動に巻き込まれ,その渦中の中で「聖杯」を手に入れた「夏桂」だったが,奴隷からの解放を目指す計画に失敗,投獄されることに.
そこに救いの手を差し伸べたのは「聖杯」の本来の所有者でもある異端カタリ派の女伝道師「マッダレーナ」であった...

某教員の奥様に貸していただいた本で,上下2段組で550ページという大作だったのだが,入院中の暇な時間を使って1日で読みきってしまった.

私の中で坂東眞砂子といえば映画化された『死国』が代表作のホラーな作家であり,ホラーが基本的にダメな私はこれまで読んだことがなかった.
とはいえ,本作は帯に「直木賞受賞後初の新境地 荘厳な歴史ロマン!」あることからも分かるように,まったくホラーではなかった(まあ,妖獣が出てきたシーンもあるが).

マルコ・ポーロに連れられて西洋に渡った東洋人の奴隷の話,と聞くと,血沸き肉躍る冒険活劇を想像する人もいるかもしれないが,実際にはそれなりに冒険や活劇もありはするが(特に第1章),そういう要素よりも神とか宗教に関する話がメインと言っていいのかな?
こう書くと,退屈でグルグルした話のように思われるかもしれないが,登場人物の言動や行動を通じて描かれているので,それほど辛気臭い話にはなっていない.

しかし,登場人物の中で「夏桂」の考え方が一番しっくりするのは,非キリスト教圏で生まれ育ったせいなんだろうか?
キリスト教圏で育った人が本作を読むと主人公の考え方に違和感を持ったりするのかなあ.
遠藤周作の『深い川』は敬虔なキリスト教信者が読むと違和感があるらしいけど...