2007年06月03日

『アラビアの夜の種族』古川日出男

[ Book]

ナポレオン率いる近代軍隊が近づきつつあるエジプト.
自らの騎士団による撃退を信ずる首脳陣の中,ただ一人敗北を予感していた「イスマーイール・ベイ」は,寵愛する執事「アイユーブ」の計略に従うことを決める.
その計略とは,これまで多くの権力者を破滅に追いやった『災厄の書』を翻訳してナポレオンに献上すること.
しかし『災厄の書』は実際には存在しておらず,その存在を新たに作り上げるため,「アイユーブ」は伝説的な語り部「ズームルッド」を招く...

出版された当時,えらく評判になっていた作品なのだが,650ページ以上,しかもそのほとんどが上下2段組という大作のため,これまで手をつけられずにいた.
入院のおかげで時間が大量にできた際,これ幸いとばかりに読み始めてみたのだが...

うわー,こういう話だったのか.

基本的には,ナポレオンが侵攻しつつある現実世界と,語り部によって語られる物語世界の2重構造で,それぞれの世界で複数の物語が展開される.

物語世界の方は完全なファンタジー.もともとはWizardryというゲームのノベライズ作品だったという話は聞いていたんだけど,確かにWizardryのことを知っているとニヤニヤしてしまうかも.
どの物語も面白かったのだが,物語によってときどき語り口が違っているので,統一感に少々欠けていたような気がしないでもない.アーダムの国盗り物語やファラーの森の話のような感じで統一してほしかったなあ.

で,現実世界でも話が展開するのだが,作品全体としては過剰なくらいボリュームがあるのに,現実世界の話がちょっとボリューム不足だったかな.
そのせいでバランスが物語世界に傾いてしまっていて,全体的にファンタジーな感じになっているような気がする.もうちょっとバランスが取れていれば,全然違った印象の話になったんだろうけど.