2004年08月15日

『戒』小山歩

[ Book]

松山市立中央図書館で借りてきた本 その2.
ほとんど知られていないけど実は名作らしく,以前から買うべきかどうか迷っていた本.

中華風の古代国家を舞台にした架空歴史物で,天才でありながら亡き母の遺志によって仕官の道を立たれ,道化として振舞いながら一国を支える主人公「戒」の活躍と苦悩の物語.
自由に生きたい,誰かに認められたいと苦悩する主人公もいいのだが,脇役も魅力的(特に「睛」が鮮烈でお気に入り).

前半と後半で主人公の性格が違っているような気もするが,それは環境の変化があったから仕方ないとしても,主人公以上の天才っぷりを発揮する異母弟が後半になっていきなり登場するなど,不自然なところがいくつかなくもない.しかし,それを補って余りあるほどの完成度を誇る作品だと思う.
既に内容は知っているが,手元においておきたいので,改めて購入することを決定した.

この作品は日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞した作品で,しかも中華風の架空歴史物.
となると,どうしても酒見賢一の『後宮小説』を思い出してしまうのだが,『後宮小説』が明るいのに対して,『戒』は基本的に暗い話なので,あまり比較対象としてはふさわしくないと思う.

でも,個人的には『戒』の方が好きで,実はラスト間際のあるシーンで泣いてしまった.
小説を読んでいて「目頭が熱くなった」レベルではなく,「きっちりと涙が流れる」レベルにまで至ったのは『ハプスブルグの宝剣』に続いて二度目.
で,どちらも同じようなシーンだったところからすると,ああいうシーンが私にとっての泣きのツボらしい.

最後に,ネタバレにならない程度にお気に入りの台詞を引用しておこう.

まだわかりませんか。まだ決断を先延ばしにして逃げるのですか、戒さま。 あなたがすべきことは何者であるかを知ることではなく、何者になるか選ぶことです。
あなただけが特別なわけではない。あなただけが不幸なわけではない。お決めなされよ。 私は待ちません。運命に是非を言える人間など、いないのだから