2004年08月18日

『鏡をみてはいけません』田辺聖子

[ Book]

ハンドクーラー(あるいはガラス製の卵)について検索しているときにヒットしたのが,この田辺聖子の小説.
駆け出しの絵本作家である主人公が,バツイチ・子持ちの恋人の自宅(小姑付き)で同居を始めるという話なのだが,その主人公が話を考えるときに握り締めるのがクリスタルガラスでできた卵なのだ.

これまで田辺聖子の作品は読んだことがなかったので,これはいい機会ということで読んでみた.
巻末の紹介文に「私はなぜここにいるのだろうか.女が美しさを求めて,自分の納得のいく居場所を模索する愛の長編小説」とあるのだが,それを読んだ時点で少々不安を覚えなくもなかったのだが...

読んでみたところ,不安が的中.主人公に感情移入しにくいのだ.

私は女性ではないので,完全に感情移入することはもともと不可能だろうが,読んでいて,主人公の自分勝手さに腹が立つこともしばしば.
主人公の恋人の方も結構自分勝手なのだが,どちらかというと,そちらの方がスジが通っているように思えるのは,私が男だからだろうか.
少なくとも,自分が同業者の男性に誘われてフラフラと出て行ったりするのを棚に上げて,昔の奥さんや恋人の話を蒸し返してキレられたりした日には,男はどうすればいいんだ? やっぱり理不尽な感情の嵐が通り過ぎるのをじっと待つしかないのか.だとしたら,男って忍耐の動物だよなあ(笑).

じゃあ,面白くないのかというと,感情移入はできなかったものの,ストーリー自体は松竹新喜劇(コテコテのお約束ギャグが出てくる吉本新喜劇とは違い,ストーリーや台詞で笑わせておいて最終的には泣きを入れながらハッピーエンドに持っていく人情話が中心.藤山寛美が座長をやってた方)みたいで,これはこれで面白い.

そして何よりも特筆すべきは,出てくる料理が全部美味しそうなのだ.
主人公が同居を始めた理由が「朝ごはんを一緒においしく食べたい」というものなので,しょっちゅう料理の描写が出てくる.
どれも美味しそうなのだが,特に「干し鯵御飯」と「豚バラ肉の塊の水煮き」はめちゃくちゃ美味しいそう.機会があったら作ってみたいものだが無理かなあ.

田辺聖子の作品はどれも料理の描写には定評があるらしく,そのあたりは今回の作品を読んで理解できた.
しかし,他の作品も今回との作品と同じような話(というか人物設定)だとすれば,男性ファンはつかないような気がする.ネットで少々調べてみたところ,やっぱりファンは女性が中心のようなので,どの作品も今回の作品と同じような傾向があるのだろうか.
とりあえずもう一冊くらい読むまで評価は保留しておこう.映画化された『ジョゼと虎と魚たち』でも読んでみようかな.