2004年09月29日

『空中ブランコ』奥田英朗

[ Book]

第131回直木賞受賞作.注射好きで子供のような精神科医の伊良部一郎と彼の病院を訪れる患者たちを描いた連作短編集.
前作の『イン・ザ・プール』を読んでいないので少々心配だったのだが,そんなこと関係なく楽しめた.

患者がトリックスターである伊良部に振り回されるうちに自分や周囲を見つめなおし,自分自身で回復のきっかけを見つけるというパターンはどれも共通.
なので,「お約束」な話と言ってしまえばそのとおりなのだが,そのぶん気楽に読めるし,そこに至るまでのドタバタは面白い.また,どの話もラストが爽やかなので読後感も良い.

ネット上の書評を見る限りでは,前作よりも毒が薄れているらしいが,そのぶん一般受けするかもしれない.本の作りも字は大きめだし,それほど字間も詰まっていないので,あまり本を読まないような人でも気軽に読めるのではないだろうか.

ということで,いつものように気に入った場面を引用しておく.ただし,少々ネタバレ気味なので,これから読んでみようという方は読まないほうがいいかも.

 心がいっきに軽くなった。言葉の力を思い知った。どうしてもっと早く、対話をしなかったのだろう。小学生にまで遡って、友達を作り直したい気分だ。
(from 空中ブランコ)


 きっと大丈夫だ。そんな気がする。負けそうになることは、この先何度もあるだろう。でも、その都度いろんな人やものから勇気をもらえばいい。みんな、そうやって頑張っている。

 人間の宝物は言葉だ。一瞬にして人を立ち直らせてくれるのが、言葉だ。その言葉を扱う仕事に就いたことを、自分は誇りに思おう。神様に感謝しよう。
(from 女流作家)