2005年02月11日

『回転翼の天使』小川一水

[ Book]

フライト・アテンダント(いわゆるスチュワーデス)になるのを夢見ていた主人公が何とか就職できたのは社員2名,所有機は最大搭載人数4名の小型ヘリコプター1機だけの弱小ヘリ会社.もちろん機内での接客業務などあるわけもなく,泥まみれになっての測量などの雑用ばかり.最初は不満だらけの主人公だったが,本業そっちのけで行うレスキュー活動をきっかけにして,自身の仕事に本格的に向き合い,成長していく.

『第六大陸』や『導きの星』の小川一水の作品.系統としては『第六大陸』に近いのだが,SFだった『第六大陸』と違って,現在を舞台に現実の技術(=ヘリなど)を前提に書かれている.

ヘリを使ったレスキューを取り巻く現状(法律や経済性,気象条件など)に立ち向かう主人公たちという,ある意味で王道のストーリー展開であり,主人公に意地悪をする高飛車なライバルや競合企業の登場,仲間の裏切りといったお約束までキッチリ押さえてあるので,ある意味で安心して読める.そして,ラストもちゃんと大団円でハッピーエンドなので,これも安心.

ちょっと無気力になっている時に気分転換に読み始めたのだが,読み終わったころには十分復活.それだけで収まらず,意味もなく閉店間際の書店まで自転車を飛ばしてしまうくらい元気になってしまった.

本作では災害の発生とそれへの対応(=レスキュー)が描かれていたわけだが,これをバージョンアップさせたのが,この後に執筆される『復活の地』.既に読み終わっており,時間ができたら記事を書こうと思っているのだが,どちらの作品にも平時には有効に機能する規則が災害時などの緊急事態の際には現場の行動を縛るというシチュエーションが登場し,それにどう対処するべきかという問題が提示されている.私の本業の観点からも色々と考えさせられる問題ではある.


最後に気に入った箇所の引用を.

「機械を作り出すのは、人間の願望だ。元になるのは、雲みたいに形のない、もやもやした想像だが、それでいい。何もないところから人間は形のあるものを作り出す。それがいきすぎて余計なごてごてしたものが物がくっつくといけないが、それでも、願望がないことには何もできないし、始まらないんだ。」