2005年02月21日

『バーチャル・ドリーム』渋沢和樹

[ Book]

通産省からコンピュータ・セキュリティに関する外郭団体に出向していた主人公は,日本のゲームソフト会社のロシア支部でクラッカーによるコンピュータ・ウィルス被害に遭遇する.
クラッカーによる次なる攻撃を予想した主人公は,この事態を通産省で以前から練られていた計画を実行するチャンス(それは自らが出世するチャンスでもある)と考え,ゲームソフト本社にセキュリティ対策要員として常駐する.
予想どおりに攻撃は起きたものの後手後手に回ってしまう主人公だが,ゲーム開発に夢を持って携わる人々たちと接するうちに,次第に変わっていく...

以前読んだ『経済小説がおもしろい。』で紹介されていた小説.松山市立図書館で借りてきた(所属は移動図書館).

読む前はゲームソフト会社をクラッカーから守る話だと思っていたので,主人公が通産省から出向してきた公務員だという設定はちょっと意外だった.
でも,その設定のおかげで官僚の陰謀やナワバリ争い,日本経済の話なども絡んでくるので,いい設定だと思った.主人公の屈折(主人公がすごく嫌な奴なのだ)とも関わってくるしね.

結構面白かったので著者について調べてみたところ,元は日経ビジネスの記者で,現在は日経ビジネスAssocieの編集長という,二足のワラジを履いている人らしい.
しかし,作品を検索しようとして,著者のことの方がたくさんヒットするというのはどうなんだろうか.話としてはよくできているので(最後の方がバタバタしているが),もっと作品自体が評価されてもいいと思うのだが...


そもそもこの本を読もうと思ったのは,『経済小説がおもしろい。』で引用されていた台詞が印象的だったからなのだが,それを含めて最後にいくつか引用を.

「俺は夢とはシステムの問題だと思っているんだ」
「俺はこう思っているんだよ。人が夢を抱けるかどうか、それを実現できるかどうかは、経済、社会システムのあり方に大きくかかっているとな。」
「つまり、人が夢を実現できるかどうかは、資金、人材面でそれを支援するシステムの存在に大きくかかっているんだ。そして、そういうシステムをつくるのは決して難しいことじゃない。」
 榎木は「夢を紡ぐ経営」と言った。その実態は、ふわふわした甘いものではさらさらない。苛烈な、しかし、やれば報われる新しい経営なのだ。
<もう一度、やってみよう>
 中牧に対する償いだけではない。
 自分自身の尊厳の問題として、俺は自分のミッションをやり遂げなければならない。そのミッションとは、夢の実現を側面から支援することだ。