2005年03月08日

『羊たちの沈黙』トマス・ハリス

[ Book]

大阪出張シリーズ.
とはいうものの,単に移動中および空き時間に読んだというだけなんだが...

ジュディ・フォスター&アンソニー・ホプキンス主演で映画化されたために非常に有名.
私もビデオで1回,TV放映時に1回の計2回見ているはずだが,映画では分からなかった細かい点(どうしてクラリスが事件解決に懸命になるかとか)がよく理解できた.

映画だとクラリスとレクター博士が話をしているうちに犯人が明らかになったような印象があったけど(少なくとも私の記憶の中ではそんな感じだ),原作ではかなり趣が違っている.
レクター博士の出す手がかりは非常に少なく,発見した証拠などをあちこちの専門家が協力して(非協力的な専門家は脅したりもするが),ようやく犯人のところにたどり着くという感じで,かなり地道.

あと,時間の関係だろうが,映画では原作のエピソードをかなり削ぎ落としているので,映画を見たことがある人もそれなりに楽しめると思う.
特に映画ではあんまり良い感じには描かれていなかった上司が,厳しいけど有能で思いやりのある上司になっていて格好良い.

しかし,問題もある.訳がちょっと読みにくいのだ.
私は新潮文庫で読んだのだが,これを訳した人をamazonで検索したところ,多数ヒットしたところからして,有名な翻訳家らしいのだが...
たとえば,「クローフォド」という人名が出てくるのだが,これって普通は「クロフォード」じゃないか?
あと「ヴィックスのヴェイポラブ」というのが出てくるのだが,しばらく悩んだあと「ヴィックス・ヴェポラップ」のことだと気がついた.スペルはVapor Rubなので,アメリカではヴェイポラブに近い発音をするのかもしれないが...
(ちなみに商品名としてはヴェポラッブが正しいのだが,ヴェポラップの方が検索エンジンでヒットする数が圧倒的に多い)

そういう固有名詞だけじゃなく,色んな点で少々読みにくかった.検索してみたところ,同じような感想を書いているページがいくつかヒットしたから,読みにくかったのは私だけじゃないようだ.

最後に気に入った箇所をいくつか引用.

ばかげた質問、というものはない。きみは私が気付かない点に気付くはずだし、それが何であるか、私は知りたい。
今がいちばん困難な時期なのだ、スターリング。この時期を利用しろ、そうすればきみは鍛えられる。今がいちばん厳しい試練だ――怒りや欲求不満で自分の思考力を失ってはならない。それが、自己を抑制できるかどうかを決める核心なのだ。無駄と愚考は人を最悪の状態に陥れる。