2005年04月26日

『豊かさの精神病理』大平健

[ Book]

『やさしさの精神病理』が面白かったので,そちらの冒頭で4部作として挙げられていたシリーズの最初の本作を借りてきた.松山市立中央図書館(書庫)所蔵.

著者は,それほど重篤な症状があるわけではないのに気軽に精神科医を訪れる「よろず相談の患者」が増加しているが,それらの多くは,自分や他者といった人について語ることは苦手だが,ブランド品や食べ物,さらにはペットといったモノについては雄弁になる「モノ語りの人びと」だという.

人との関係では親密さと葛藤がコインの両面のように一体になっているが,これらの人々はモノに依存することで「幸せ」を感じようとしたり,葛藤を軽減するために人づきあいをモノ化(もらったスカーフで友達を区別したり,女性を点数化したりする)する.
それどころか,ブランド品などを所有することで個性や能力を引き出そうとする「自分自身のモノ化」までしてしまう.

そういう人たちは「葛藤慣れ」していないため,些細な葛藤も自分だけで解決することができず,そのために精神科医の元を訪れるのだ.

『やさしさの精神病理』同様,読みやすくて面白かったのだが,前作には自分にも当てはまるところが多数あったのに対して,こちらは何か他人事のような感じがした.
これは,私自身が「必要な機能を満たしていれば,あとはコストパフォーマンス重視」な価値観の持ち主であるため,ブランド品にはあまり魅力を感じないためだろう.
逆に,ブランド品などをたくさん買ってしまう(あるいは欲しがる)人にとっては,色々と身につまされたりするのかもしれない.