2005年04月29日

『心理学化する社会』斎藤環

[ Book]

トラウマやアダルトチルドレンといった精神医学由来の概念が多用される現代社会を,現役の精神科医が分析した本.松山市立中央図書館で借りてきた.

音楽や映画におけるトラウマの扱われ方について概観した後,トラウマ概念についての説明と現在の扱われ方への苦言,カウンセリング・ブームの背景にあるもの,事件報道と精神鑑定,脳ブームと,現代社会のさまざまな現象について分析している.

軽い気持ちで読み始めたのだが,思ったよりも歯応えがあった.しかし,これでも作者の本としては読みやすいほうなのだという.うーん,ラカンだとか解離性障害だとか,その手の概念をちゃんと押さえていれば理解しやすかったんだろうけど...

この前に読んでいた大平健の著書にも「気軽に精神科を訪れる患者の増加と重篤な患者の減少」が取り上げられていたが,この本でも同じ現象が取り上げられていた.
この本ではその理由を,心理学的知識が一般化することによって自分自身をその枠にはめる患者が多くなったためであり,それゆえに心理学的なもの(臨床心理学と精神医学)への需要が増加したとしている.

この他にも「相手に踏み込まない」ようにするために心理学的知識が求められている傾向など,大平健の著作や『自己コントロールの檻』とも共通する考え方が多く出ており,これが最近の傾向なのだろうなあと思わされることも多々あった.