2005年08月19日

『天使』佐藤亜紀

[ Book]

第一次世界大戦直前のオーストリア,その天性の「感覚」を顧問官に見出されたジェルジュは,諜報員としての教育を受け,戦乱の欧州各国に潜入する.ジェルジュが対峙するのは同じ「感覚」を持った能力者...

作者の佐藤亜紀は日本ファンタジーノベル大賞出身者で,メジャー受けはしないものの,その筋では評価が高い作家.この作品も芸術選奨新人賞とかいうのを受賞している.
でも,実はこの作者の作品を読むのはこれが初めて.ちなみに松山市立三津浜図書館所蔵.

で,内容の方なのだが...これが分かりにくい.
ストーリー的には非常にわかりやすい,いわゆる「王道」的な展開をするのだが,時々わけが分からなくなって,何回も読み返しをしないとついていけなかった.

その理由の一つは,作品中での説明が極端に少ないこと.
第一次世界大戦時の状況や地名が分かっていることは大前提.
さらに,サラッと名前だけが出てきた登場人物(=ザヴァチル)が,説明がほとんどないままで普通に喋り始めたりするので,読んでいて「これは誰だ?」となって読み返しをするわけだが,本当にサラッと名前が出てきただけ(=カラヴィチの上官という説明が一箇所あるだけ).おかげで,なかなか発見できず,読むのが長時間ストップしてしまった.

もう一つは「感覚」の存在.いわゆる超能力なのだが,この「感覚」が選ばれた一握りの人にしか使えないのか,それともそんなに珍しくない能力なのかが分からない.
どうやら後者の位置づけのようなのだが,それに気が付かないまま読み進めていたので,一般人だと思っていた登場人物がいきなり能力を使いはじめて,「え?え?」と混乱してしまったりもした.
あと,「感覚」の描写の中には,普通に肉体を使った描写と同じものがあったりするので,「この『殴る』はどっちだ?」となったりして,これも混乱のタネになった.

ネット上のレビューを見ると,文章の美しさを評価する声が多いのだが,個人的には文章の美しさよりもストーリー展開重視なので,イマイチかな.
当時のヨーロッパ情勢についての知識があれば,もっと楽しんで読めたんだろうけど.