2005年10月19日

『ブルータワー』石田衣良

[ Book]

脳腫瘍に冒され,残り少ない日々を高層マンションですごす主人公.
そんなある日,耐え難い激痛の後に意識を取り戻した主人公は,自分が変異型インフルエンザが蔓延する200年後の日本で,身分階級によって住む場所が定められた高さ2000メートルの塔の支配階級のひとりとなっていることに気がつく.
激痛のたびに,余命わずかな現代の日本と,階級闘争の激化する未来世界を行き来する主人公は,本当に予言された救世主「嘘つき王子」として世界を救うことができるのか...

IWGPでお馴染みの石田衣良が初めて書いたSFファンタジー.松山中央図書館所蔵.

単独作品としては石田衣良の作品のなかでも最長らしいのだが(400ページ以上),他の石田衣良作品同様,サクサク読めるのであまり長さは気にならなかった.
いくつかツッコミを入れたくなる箇所もあるのだが(インフルエンザの情報を伝える手段は他にもっと確実なものがあったはずとか,時代背景による違いとはいえ登場人物の名前が暴走族みたいでイヤだとか),まあ,SFファンタジーだし,そのあたりは目をつぶることにしよう.全体的には十分楽しめた.

で,この読みやすさ,そしてジャンルがSFファンタジーということで,読み終わって最初に思ったのが「これって『ライトノベル』だよなあ」だった.
ライトノベルを厳密に定義した上で思ったことではないのだが,主人公が40代(未来世界では30代)という点とイラストがない点を除けば,私の中ではライトノベルと同じカテゴリーに入る.

ネットで書評を検索すると,SF小説を読みのはこれが初めてという人も高い評価をしている.こういう人たちが本作の次にいきなりSF小説にいくのはハードルが高いと思う.先に「SFファンタジー」と書いたが,個人的には「SF」よりも「ファンタジー」の要素が強いと感じたためだ.
そういうSF初心者は,まずは評価の高いライトノベルを読んで体を慣らした上で,他のSF小説に手を出すというルートがいいのではないだろうか.