2005年12月21日

『彼方なる歌に耳を澄ませよ』アリステア・マクラウド

[ Book]

裕福な歯科医であるアレグザンダーは,ボロアパートで暮らすアル中の兄キャラムの様子を見るために毎週長時間のドライブをしている.
アルコールなしでは満足に立つこともできない兄のため,酒を買いに行く途中,アレグザンダーは自分と兄の過去,そして18世紀末にスコットランドからカナダに渡ってきたハイランダーの末裔である「クロウン・キャラム・ルーア(赤毛のキャラムの子供たち)」と呼ばれる自分たち一族のことについて思いを馳せる...

ネットの書評で絶賛されていたので,松山市立中央図書館で借りてきた.

前回読んだ『灰色の輝ける贈り物』と同じく,漁師や鉱夫を生業として父祖伝来の土地で生きていく移民の一族と,同じ血を持ちながらその土地から離れて都会で現代的な職業に就く人々が主要な登場人物.
しかし,どちらかというと両者の対立と断絶が描かれていた前作と違って,作中にも出てくる「血は水よりも濃い」という言葉どおり,両者の助け合いというか,離れていても同じ一族であるということの強さや暖かさが,さまざまなエピソードを積み上げていくことで描かれている.

一人称の小説なのだが,主人公は万事控えめであり,どちらかというと観察者としての役割に徹しているため,魅力的なのは他の登場人物.
最初がアル中で,回想シーンでも主人公を殴りつけていたので,粗暴な人物だと思っていた兄のキャラムもそれなりに分別もあれば頼りがいのある人物だったりするのだが,個人的には主人公の二人の祖父が印象的だった.
陽気で家族や友人に恵まれて幸せな「おじいちゃん」も読んでいて楽しいのだが,個人的には堅物で家族運に恵まれなかった「おじいさん」の凛とした生き方に惹かれた.でも,ああいう風にはなれないだろうなあ.

ストーリー自体はそれほどドラマティックなものではないのでく(主人公は歯医者に,兄はアル中になることが最初の時点で分かっている),さまざまなエピソードを通じて一族の絆というか暖かさをジワーッと感じて楽しむタイプの作品だろうか.
そういう小説の味わいとはまた別に,地縁や血縁,文化の伝承などについても考えさせられる作品で,色々な意味で面白かった.

同名の登場人物が多かったり,一人が複数の名前で呼ばれたりするため,最初は少々とっつきにくさを感じるが,そのあたりは次第に慣れてくる.
また,ハイランダーの歴史が分かっていないと何のことだかわからない話が多数出てくるのだが,これはあとがきを先に読んでおけばかなり緩和されるので,先にあとがきを読んでおくことをオススメする.


最後に気に入った台詞を引用.

「今日はいろんなことがあったけど、なんとかがんばらなきゃあね。強くならなくては。コップの水に入れたスプーン一杯の砂糖みたいに、溶けて消えてしまうわけにはいかないよ」おばあちゃん
「みんな疲れてるんだよ、あたしも疲れてる。疲れてるからって、世界は止まっちゃくれないの。だから早くやっちゃいなさい、そうすりゃ、すぐ終わるから」おばあちゃん